2018年6月30日土曜日

SP 論文書き直し 3


1. Theoretical review regarding SPs

The nature and characteristic of SPs have been described and discussed by major authors. In his classical work, Kluft (1984) already mentioned aggressive and destructive parts often observed in DID patients. Frank Putnam, in his classification of different “alter personalities”, mentioned “persecutor personalities” which sabotages the patient’s life and may inflict injury upon the body and can be suicidal. As for its origin, Putnam states that "introjects" of the original abuser(s); others have evolved from original helper personalities into current persecutors”. Putnam also describes that that personality “strikes a contemptuous or condescending attitude toward the therapist and often actively seek undermine treatment”. Ross (1997) also mentions “persecutor personalities” which he describes as “often responsible for suicide attempts, "accident”s, self-destructive and self-defeating behavior, and outwardly directed aggression as well”. “They often present as tough, uncaring, and scornful, but this is usually just a front for an unhappy, lonely, rejected-self-identity”.
Kluft, R. P. (1984). An introduction to Multiple Personality Disorder. 
Psychiatric Annals, 14(1), 19-24.
Putnam, F.W. (1989) Diagnosis and Treatment of Multiple Personality Disorder. The Guilford Press, New York
Ross, C.A.(1997) Dissociative Identity Disorder. Diagnosis, Clinical Features, and
Treatment of Multiple Personality Second Edition. John Wiley and Sons, New York

2018年6月29日金曜日

SP論文 書き直し 2

SP論文とは、「shadowy personality 影のような人格、黒幕人格」という概念について英語でまとめているものであるが、書き直しが必要になった。以下は追加、ないし書き直しの部分。

 ところで shadow ということでユングの「影」を思い起こす。ところがそのユングがまさにDIDについて記載しているという論文がある。そこに影のような人格 shadow-like personalities という記載まであるのだ! 以下がその引用である。一世紀前に彼は同様のことを考えていたことになる。Noll という学者の論文から。

 ”The shadow is violently represented by the frequent presence of ‘persecutor’ alternate personalities. These persecutors torment the afflicted individual, often committing acts of internal violence toward other personalities, violence toward other people (including homicide), or attempting self-mutilating or suicidal actions towards the ‘host’ body. Sometimes -reflecting the strong resurgence of the archetypal strata- these shadow-like personalities actually claim to be demons or the Devil himself. These persecutors compulsively repeat the painful abuses suffered at the hands of adults by the victimized child, forever recreating the initial sadistic situation that splintered the young mind into a multitude of identities”.  

R.Noll. (1989) Multiple Personality, Dissociation, and C.G.Jung’s Complex Theory. Journal of Analytic Psychology 1989, 34, 353-370. 

2018年6月28日木曜日

SP 論文書き直し 1

In the other state she hallucinated and was ‘naughty’—that is to say, she was abusive, used to throw the cushions at people, so far as the contractures at various times allowed, tore buttons off her bedclothes and linen with those of her fingers which she could move, and so on.
Fräulein Anna O, Case Histories from Studies on Hysteria. Josef Breuer (1895, p.24)

   Dissociative identity disorder (DID) is no longer considered a rare condition. In some studies, its prevalence among the general population is estimated to be around 1–3% (Johnson, Cohen, Kasen, & Brook, 2006; Murphy, 1994; Ross, 1991), which gives many psychiatrists and psychotherapists the opportunity to be in contact with patients with this condition in their clinical settings, whether they are aware of it or not.
   While treating patients with DID, clinicians often encounter a type of personality state or “alternative personality” displaying negative emotion such as aggressiveness or self-destructiveness. These personality states are typically difficult to identify or locate in the patient’s mind, but nonetheless, they occupy the patients mind as they feel their existence is overshadowed and threatened by these personality states as they are often unpredictable and largely unknowable.
   Although this type of personality state was described or referred to by multiple authors, I would like to single out this type of personality and tentatively call it “shadowy personalities” (SPs) and discuss in this paper somewhat in detail, and try to delineate the clinical significance of this notion.
  The surname “SP” has been started to be used rather spontaneously in my clinical practice, both by my patients and therapists involved in their treatment. Actually this
is often how the patients describe them—namely, that they are not easy to grasp and often take the form of a shadow or grayish figure.

2018年6月27日水曜日

解離の本 31


妊娠と出産について

DIDを呈して受診する患者さんの多くは十代、二十代の女性であり、パートナーや配偶者を得て妊娠や出産を経験する機会が訪れることも少なくありません。解離の治療が進み、それぞれの人格が安定を取り戻した場合に、妊娠、出産を考える場合も少なくありません。あるいは実際に幼な子を抱えつつ治療を行う場合もあります。その際に一番多く聞かれるのが、「自分はこの子を脅かすのではないか、傷つけるのではないか」という懸念です。彼女たちの懸念は理解できるものです。実際に彼女たちの「黒幕人格」が過去に物を破壊したり、他人を脅かしたりするということが生じた場合は、その懸念は重大なものとなります。
DIDの患者さんを多く扱ってきた経験から言えることは、幸い母親が子供にあからさまな危害を加えたというエピソードを聞いたことがないということです。母親の本能として、自分の幼な子を傷つけないということは深く刷り込まれているようで、実際にそれが生じることには様々な抑止が働くようです。ただし母親が人格交代を起こし、黒幕的な振る舞いをすることを、子供が目撃することは起きえます。特に幼児がやがて物心つくようになり、母親の様々な人格に接するようになると、「お母さんが悪いことをしている」と認識することもあるようです。
 私たちは「子供を持っていいでしょうか?」という問いに対して、お子さんに対して傷つけるのではないかという懸念をDIDの患者さんは一般に過剰にもちすぎる傾向があるようです。」と伝え、彼女たちの反応を見ることにします。また子供を持つ際にパートナーや配偶者の協力は絶対欠かせないため、両者の関係性を見たうえで総合的な判断を伝えることがあります。
          
        (臨床例:略)

2018年6月26日火曜日

解離の本 30


2-3.中期~後期の課題
次に中期から後期の治療における課題について述べましょう。
 人格の交代が目まぐるしく起きなくなると、患者さんの日常生活は、一見穏やかになります。治療が進んだ際の特徴の一つは、主たる人格が様々な感情を徐々に体験し、ないし表現できるようになることです。それまでは怒りや恐怖、憎しみや嫌悪といったネガティブな感情を持てないでいた主人格が、徐々にそれらの感情を持てるようになります。ただしもちろんそこには個人差が生じ、主人格はあい変わらずそれらの感情を別人格に託すことも少なくありません。ですからその意味ではこの中期-後期の治療過程に進む患者さんのスピードにはかなり個人差があると言えます。
 さてこれまで別人格が引き受けていた不安や葛藤を主人格が直接体験することになると、それまでとは質の異なる抑うつ感や無力感に襲われるようになります。トラウマそのものがもたらす苦しみから解放された分、自分という存在を連続して体感することに違和感や疲れを覚えるようにもなります。この時期にも何かのきっかけで交代人格が現れることはあり、自分が何者であるのかという患者の問いは続きます。それらの違和感に患者さんが慣れてきた頃には、治療は個人の心理療法の様相を帯びるようになり、治療者も一人の人物と継続して関わっていると感じるようになります。
 患者さんは次第に現実を客観的に把握できるようになり、それゆえの悩みも増えていきます。結果として、就職、結婚、子育てなどライフスタイルの新しい局面を迎えることもあります。それらの経験が患者の心のまとまりを促し、全人格的な成長を遂げることも少なくありません。さらに患者さんの変化を受けて家族や周囲との関わりも変化します。悩みの内容も普通の人と同じような日常的な困りごとへと移り進み、健康な人の日常生活に近づいていくのです。個人としての生活が整い、社会的に認められることで、最後まで残っていた交代人格が満足を得て消えていくこともあります。

2018年6月25日月曜日

解離の本 29

2-2.トラウマに向かい合う

過去にトラウマを体験している患者との治療は、時には困難を有します。性被害にあった女性患者に男性恐怖の症状が現れ、暴力を受けた患者が体の痛みを覚えるなど、当時の体験に直接関連する症状の訴えは少なくありません。治療中のセッションでフラッシュバックが起こり、パニックに陥ることもあります。その多くは恐怖感を伴う体験であり、怒り・悲しみ・嫌悪など多様な負の感情が賦活されるのです。加害者が親兄弟や恋人など親密な対象であれば、その傷つき体験は一層複雑なものとなります。相手に対する愛着や思慕の感覚と相反する恐怖や怒りの感情は両価的であり、ひとつの心に収まりきらず、重篤な解離の結果として心理的な解体や断片化が生じます。フェレンツィは近親姦の事例において、出来事の後の加害者の矛盾した振る舞いが患者を一層混乱させ、加害者の罪悪感の取り入れが起きると解説しています。加害者側の強い否認により、出来事の責任が自分自身にあるように患者さんは錯覚しやすくなります。深刻な被害の体験は、こうして他者および自分自身に対する基本的な信頼感を破壊します。
DIDの症状に向き合い、様々な人格との接触を試みることは、事実上その患者さんの持つ過去のトラウマの記憶を扱うことになります。なぜならそれぞれの人格は、独自の過去を背負っていて、あるいは体で表しているからです。遊びを求めて出てくる子供の人格も、甘えたい、遊びたい、でもそれが表現できないという幼少時の体験を担っているといえます。また泣き叫び、恐怖におびえる子供の人格は、まさに幼少時の何らかのトラウマをプレイバックし続けているかのようです。

2018年6月24日日曜日

解離の本 28



主要メンバーとの出会い-患者さんの世界で何が起きているのか

治療が開始され、治療関係が形成されていった段階で、一体患者さんの世界で何が起きているのかを把握する必要があります。どのような主要メンバーがいて、いつどのような状況で人格の交代が起きているのか。どの人格のどのような振る舞いに問題が生じているのか。これは従来言われていたマッピングとは異なり、患者さんの中に存在する主要メンバーの動きを大まかに知るというプロセスです。
たとえばAさんが職場での仕事を担当し、比較的安定していたが、職場での上司とのトラブルからBさんという子供人格が時々出るようになってしまう。更にはAさんは過去に自殺未遂や自傷行為を引き起こす人格Cが存在するが、しばらくは姿を見せずにいる、という状況を考えよう。ここではA,B,Cという主要人格が登場していることになります。もちろんこれ以外にも時々登場する冷静な人格D、更に幼少な人格Eが存在することが明らかになるかもしれないが、今起きている問題にかかわっている人は主として、A,B,Cさんということになります。そこでセラピストとしては、これらの人々とあって話す必要が在ります。
ただしそうは言っても、たとえばCさんと出会うことは簡単にはできないでしょうし、それを急ぐことは場合によっては治療的といえない可能性も在ります。もちろん激しい行動化を繰り返す人格と接触できれば、治療の進展につながりやすくなります。特定の人格が度々自分自身を傷つけ他者への攻撃をやめない場合は、それが主人格の自覚できない情動を排出するための行動化である可能性もあります。行動する人格と感情を表現する人格が別れていることもあれば、状況全体を俯瞰する人格が存在することもあるでしょう。それぞれの人格の特徴と果たす役割を理解し、人格間の関係性を整理するマッピングを行えば、全体像を把握するのに役立ちます。