2018年6月27日水曜日

解離の本 31


妊娠と出産について

DIDを呈して受診する患者さんの多くは十代、二十代の女性であり、パートナーや配偶者を得て妊娠や出産を経験する機会が訪れることも少なくありません。解離の治療が進み、それぞれの人格が安定を取り戻した場合に、妊娠、出産を考える場合も少なくありません。あるいは実際に幼な子を抱えつつ治療を行う場合もあります。その際に一番多く聞かれるのが、「自分はこの子を脅かすのではないか、傷つけるのではないか」という懸念です。彼女たちの懸念は理解できるものです。実際に彼女たちの「黒幕人格」が過去に物を破壊したり、他人を脅かしたりするということが生じた場合は、その懸念は重大なものとなります。
DIDの患者さんを多く扱ってきた経験から言えることは、幸い母親が子供にあからさまな危害を加えたというエピソードを聞いたことがないということです。母親の本能として、自分の幼な子を傷つけないということは深く刷り込まれているようで、実際にそれが生じることには様々な抑止が働くようです。ただし母親が人格交代を起こし、黒幕的な振る舞いをすることを、子供が目撃することは起きえます。特に幼児がやがて物心つくようになり、母親の様々な人格に接するようになると、「お母さんが悪いことをしている」と認識することもあるようです。
 私たちは「子供を持っていいでしょうか?」という問いに対して、お子さんに対して傷つけるのではないかという懸念をDIDの患者さんは一般に過剰にもちすぎる傾向があるようです。」と伝え、彼女たちの反応を見ることにします。また子供を持つ際にパートナーや配偶者の協力は絶対欠かせないため、両者の関係性を見たうえで総合的な判断を伝えることがあります。
          
        (臨床例:略)