2026年9月8日火曜日

成田先生のこと 4

 秀逸な概念である「心の井戸」「その場の雰囲気さん」

この問題について忘れないうちに書いておきたい。このテーマで一番参考になるのは、「共感をめぐって」というエッセイであり、「寄り添うことのむずかしさーこころの援助と「共感」の壁」という祖父江、細澤編著 (木立の文庫 2023年)に特別寄稿として書かれたものである。これは先生がかなり晩年に近くなり、共感の問題について率直に論じている文章だ。実は個人的な話で恐縮だが、このエッセイは後半にポール・ブルームの「反共感論」に触れていている。そしてそれがこの書で私が担当した章「S共感とG共感ー脳科学の視点から」と内容がかぶっているのだ。もちろん成田先生と私は個別に原稿を書いていたのでお互いの引用はしていない。同時にブルームの著書に影響を受けていたのだ。私の章はかなり脳科学的で、本書の中ではかなり異質なため、末尾の方に掲載されていたのだが、私の書いたことに成田先生が暗黙のうちに承認をしてくれたように感じたことを覚えている。

この章を読んでもかなり成田先生は戦っておられる。彼は共感をポール・ブルームに倣って認知的なそれと情動的なそれに分け、精神分析的な解釈はもっぱら前者によるものとする。ここら辺はフロイト批判のニュアンスがある。そして共感を雰囲気として感じ取るものとして、つまりは情動的な共感として患者に伝えることを実践しているという。そしてその上で彼が掲げるのが、「その場の雰囲気さん」という言葉であり、第三者的な立場の人が治療室にいたらその場の雰囲気をどう感じ取るかをそう呼ぶという。これはまさに精神分析の「第三主体」ないしは間主観性の概念を彷彿させるが、成田自身いみじくも、これを the third,すなわち第3の主体と同類のものとしている。