2022年1月23日日曜日

偽りの記憶 論文化 12

 記憶の脳科学と再固定化の問題

蘇った記憶や過誤記憶について理解するにあたり、まず記憶が脳でどのように形成されるかについて論じたい。ただし記憶の問題の解明はまだ始まったばかりであり、かなり仮説的なものも含まれることをお断りしたい。

まずある事柄を覚えている、あるいは想起する、とはどういうことかを考えよう。例えば高校の卒業式のことを私たちは「覚えている」と感じるとする。するとその時体験した様々な事柄、「仰げば尊し~♬」のメロディー、クラスメートとの別れの握手や先生方の顔などが沢山一挙に浮かんでくるだろう。それは視覚的情報、聴覚情報、触覚情報などあらゆるものを含む。そしてそれらはもともと脳の様々な部位で蓄えられていたはずだ。ということは記憶とはそれらが結びつけられている状態と見なすことが出来よう。

いわゆるニューラルネットワークモデルとは、人間の脳が膨大な数のニューロン(神経細胞)が網目状の構造をなしていると考える。それに従えば、過去の出来事を想起することとは、数多くのニューロンが同時に興奮する現象とみていい。そしてそこで物事の想起がまさに進行していく過程を説明するのが「連想活性化説 associative activation(p96) である。これは記憶とはある一つの事柄からの連想という形で波紋が広がるようにニューロンが活性化されていくという事だ。そのつなぎ目をノード(結び目)と呼ぶ。似た意味を持つノードの間には、強い結びつきがある。そこを伝わって記憶のネットワークが賦活化され、記憶内容が次々と広がっていくのである。

以下略