以上のように自傷行為を黒幕人格によるものと考えた場合、DIDにおいて生じる自傷の様々な形を比較的わかりやすく理解することが出来るようになります。なぜ患者さんが知らないうちに自傷が行われるのか。それは主人格である人格Aが知らないうちに、非虐待人格が自傷する、あるいは虐待人格が被虐待人格に対して加害行為をする、という両方の可能性をはらんでいます。時には主人格の目の前で、自分のコントロールが効かなくなった左腕を、こちらもコントロールが効かなくなっている右手が傷つける、という現象が起きたりします。その場合はここで述べた攻撃者との同一化のプロセスで生じる3つの人格の間に生じている現象として理解することが出来るわけです。
特にここで興味深いのは、主人格が知らないうちに、心のどこかでIWAの1と2が継続的に関係を持っているという可能性です。この絵で両者の間に矢印が描かれていますが、これは主人格を介したものではありません。ここは空想のレベルにとどまるのですが、両者の人格のかかわり、特にいじめや虐待については、現在進行形で行われているという可能性があるならば、この攻撃者との同一化のプロセスによりトラウマは決して過去のものとはならないという可能性を示しているのだろうと考えます。
ただしこの内的なプロセスとしての虐待は、この黒幕人格がいわば休眠状態に入った時にそこで進行が止まるという可能性があります。その意味ではいかに黒幕さんを扱うかというテーマは極めて臨床上大きな意味を持つと考えられるでしょう。