2019年5月19日日曜日

黒幕さんの生成過程 ③

同様の現象として、皆さんは憑依という現象を御存知でしょう。誰かの霊が乗り移り、その人の口調で語り始めるという現象です。日本では古くから狐に憑くという現象が知られてきました。霊能師による「口寄せ」はその一種と考えられますが、それが演技ないしはパフォーマンスとして意図的に行われている場合も十分ありえるでしょう。
現在では憑依現象は解離性同一性障害の一タイプとして分類されていますが、それが生じているときは、主体はどこかに退き、憑依した人や動物が主体として振舞うということが特徴です。
この図では攻撃者は赤いイガイガの図で描かれています。攻撃者の心の中には被害者(青で示してある)のイメージがあります。(図は省略)

ここで再び脳科学的な話になりますが、人間の心とは結局は一つの巨大な神経ネットワークにより成立しています。そのネットワークが全体として一つのまとまりを持ち、さまざまな興奮のパターンを持っていることが、その心の持つ体験の豊富さを意味します。そしてどうやら人間の脳はきわめて広大なスペースを持っているために、そのようなネットワークをいくつも備えることが出来るようなのです。実際にはほとんどの私たちは一つのネットワークしか持っていませんが、解離の人の脳には、いくつかのいわば「空の」ネットワークが用意されているようです。そこにいろいろな心が住むことになるわけですが、虐待者の心と、虐待者の目に映った被害者の心もそれぞれが独立のネットワークを持ち、住み込むことになります。
もちろん空のネットワークに入り込む、住み込むといっても実際に霊が乗り移るというようなオカルト的な現象ではありません。ここでの「同一化」は実体としての魂が入り込む、ということとは違います。でも先ほど述べたように、マネをしている、というレベルではありません。プログラムがコピーされるという比喩を先ほど使いましたが、ある意味ではまねをする、というのと実際の魂が入り込む、ということの中間あたりにこの「同一化」が位置すると言えるかもしれません。そしてそれまで空であったネットワークが、あたかも他人の心を持ったように振舞い始めるということです。
すると不思議なことがおきます。被害者の心の中に加害者の心と、加害者の目に映った被害者の心が共存し始めることになります。この図に示したように、攻撃者の方はIWA(「identification with the aggressor 攻撃者との同一化」の略)の1として入り込み、攻撃者の持っていた内的なイメージはIWA2として入り込みます。(図は省略。)