2018年3月13日火曜日

精神分析新時代 推敲 35


3.考察
(中略)

 この私とAさんとの関わりで生じたことは、現代の精神分析では「エナクトメント enactment」と呼ばれるものとして理解されるだろう。エナクトメントは1950年代くらいから、私たちが持つ無意識的なファンタジーを象徴的に行動に表す一般的な傾向として使われ出した。識者によればこれは臨床状況におけるアクティングアウトと同等のものであるとされる(Auchincloss and Samberg, 2012)。 それが意味を持つのは、そのエナクトメントの意味を治療者と患者がともに行うことで、相互の心の働きの理解が深まり、それが患者の自己認識を変えたのであろう。その詳しいメカニズムはわからない。ただそれは転移的な関係性についての言語的な言及やそれによる認知レベルでの理解を超えた何かであることは確かであろう。

Auchincloss, E. L. and Samberg, E. (2012). Psychoanalytic Terms and Concepts. 4th Revised edition edition.Yale University Press.

 最後に改めて述べたいのは、転移・逆転移関係はあらゆる瞬間に存在していて、私たち治療者は常に出来るだけそれに自覚的でなくてはならないということである。しかし転移はまた患者さんとの生きたかかわりの中で常にめまぐるしく動いていくものなのだ。そしてそれを自覚したり扱ったりする余裕は、実際の治療場面ではきわめて乏しいばかりでなく、そうすることで転移のダイナミズムは停止しかねないものとも考える。