2022年8月28日日曜日

パーソナリティ障害 推敲 16

PDの疫学について論じる際に触れなくてはならないのが、米国立精神衛生研究所(NIMH)により2009年に開始されたRDoCResearch Domain Criteria研究領域基準)というプロジェクトである。これは観察可能な行動のディメンション及び神経生物学的な尺度に基づく精神病理の新しい分類法である。このモデルが提起された背景には、従来のDSMICDに基づく研究が、臨床神経科学や遺伝学における新たな進歩による治験を取り込むことに失敗しているという声が大きくなったことがある (Insel, 2010)。米国の精神医学研究の中心となるNIMH2013年のDSM-5 の発表の直前に、今後研究をDSMではなくRDoCに基づいて行うと発表したために、一気にこの動きが加速することとなったという経緯があった。

RDoCプロジェクトは、様々な症状をディメンショナルかつ詳細に評価し、それを遺伝子、分子、細胞、神経回路などの階層と照合するものであり、本プロジェクトにより検査に活用できるバイオマーカー開発、精神障害の病因・病態解明、さらには精神科領域での個別改良の実現が期待されている(尾崎、2018)。このRDoCの概念の骨子にあるのが、「精神疾患は脳の神経回路の異常による」という考えである。もちろんその神経回路は複雑な遺伝・環境要因と発達段階により理解されるものだ(橋本, 2018)。
 
このRDoCプロジェクトの推進は現代の精神医学の進むべき道が示されているといえるが、ここには米国精神医学会とNIMHとの駆け引きも見え隠れする。「概念と病態」で示したディメンショナルモデルの台頭も、このRDoCの推進と深く関連していることは言うまでもない。