そろそろテキストを決定していかなくてはならない。
疫学
疫学とは「明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える要因を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学」と定義される(日本疫学会ホームページより)。すなわち疫学について論じる際にはデータに基づいた実証的な議論が必要となる。他方PDという疾患概念はすでに見たようにこれまでにその内容が様々な変遷を経ており、今なお流動的である。これはPDに関する疫学を論じることの難しさを意味する。そしてDSM-ⅣまでのPDのカテゴリカルモデルに対する批判には、疫学的な問題も多く絡んでいたことはすでに示したとおりである。
PDは一般人の6~10%に見られる(Samuels, 2011)と報告される。しかしPD一般の疫学的なデータはその定義そのものに左右されるという問題がある。DSM-5(2013)によれば、PDは通常は青年期又は成人期早期に認識されるようになり(18歳未満ならその特徴が一年以上持続するもの、ただし反社会性PDは常に18歳以上に適用)、長期にわたって比較的安定した思考、感情、及び行動の持続的様式とされる。ただ長期における安定性の度合いに関しては、時間経過とともに診断の変更が頻繁に起こるともいわれる(Shea, MT, 2002)。
またDSM-5の記載によれば、BPDと反社会性は年齢と共に目立たなくなるが、強迫性、統合失調症型はそうはならないとされる。さらに男女差に関しては、反社会性は男性に多く、それ以外(境界性、演技性、依存性など)は女性に多いとも記されている。
DSMにあげられた有病率については、DSM-5では全米併存症再調査研究National Epidemiologic Survey on Alcohol
and Related Conditionsによるデータ((
)内に示す)も併記されているために、その数字にも幅が見られる。猜疑性PDは2.3%(4.4 %)、シゾイドPDは4.9% (3.1%), 統合失調型PDは4.9%(3.9%)、反社会性は0.2~3.3%、演技性PDは(1.84%),自己愛性は0~6.2%、回避性は(2.4%)、強迫性PDは2.1~7.9%などの数字が挙げられている。
またPDの遺伝率に関しては、より最近の研究(Torgersen, et al, 2008)では、反社会PDが38% 、演技性PDが31%、境界性PDが35%、自己愛性PDが24%とされる。