2021年5月6日木曜日

解離性健忘 書き直し 6

今日書く内容も、本当に知ってよかった。この項目の執筆依頼があってこそ、これを調べることができた。私はこんな機会がないと勉強嫌いで知らないことばかりで過ごすことになる。 勉強(強いられる学び)は本当に大切だ。

<鑑別に追加>一過性全健忘(TGA

ところで私は気になっていたことがある。それは医学生の頃TGAという病気について聞いていたからだ。Transient global amnesia 日本語では一過性全健忘、となる。確か海馬を養う椎骨動脈の血栓で生じるような、純然たる脳障害と思っていたが、結構違うらしい。これを調べなくては。ところがTGAは解離の本にも鑑別診断としてあまり出てこないし、TGAを脳の病気として記載する論文を読むと、鑑別診断に解離性健忘が出てこない。そこで降ってわいたように解離性健忘の鑑別診断としてこの疾患が浮かび上がってきた。

ところでこのTGA,結構ややこしい。初老期に多く、原因は不明という。エー?じゃあますます解離との鑑別が重要ではないか。症状としては突然生じる著しい記憶障害、同じ質問を繰り返す。 24時間以内で自然軽快し、他の神経機能を損なわないという。50~80歳に多く、朝の発症が多い。だいたい続時間は1~10時間。何やら診断基準があるようだ。次のような診断基準が書かれている。

診断基準:

1)発作が目撃され、発作中の情報が観察者から得られる

2)自分が誰かというアイデンティティは保たれる。

3)意識混濁・見当識障害がなく、高次機能障害は健忘による減弱のみに限られる。 

4)発作中、神経学的局所徴候は合併せず、発作後もない。

5)てんかんの特徴がない。

6)発作は24時間以内に消失する。

7)頭部外傷や活動性のてんかん(抗てんかん薬内服中また は、2年間以内に1度以上の発作)がないこと。

少し安心させるのは、改善後の管理は不要であると記載されていることだ。 発作が改善していたら治療の必要はなく、帰宅で良い。運転 制限ふくめ、日常生活の制限は必要なし。また高血圧や高コレステロールは危険因子として含まれないという。つまりこれは血管の問題とは異なるらしいということだ。性差もない。

英語のWIKIの記載が非常に詳しい。そこからもう少し詳しい情報も得られた。TGAの発作が起きた人は、かなり複雑な認知能力も示すことができるが、自分は誰だかわかるし、家族も認識できる。しかし不思議なことに記憶に関しては過去2,3分に起きたこと以外は何も思い出せない。それから数時間以内に記憶は戻り、今度はこの発作のことは健忘される。約三分の一のケースで先行して何らかのきっかけが見られ、それらはセックスを含む激しい身体運動、冷水での水泳、気温の変化、心的ストレスなどであるという。1990年代までは、TGAは一種の血管障害と考えられていたという。でも現在ではTGAの既往は脳卒中などとは関係ないという。(私が医学生だった頃だ。)

これを知らなかったら解離性と間違いやすいだろう。一つの特徴としては、これが多くは数時間で回復するということだ。そしてその特徴は前行性健忘と記銘障害。つまり今言ったことを覚えられないから何度も同じことを訊く、ということが起きるという。自分の名前は言えるという。するとこれが一番の鑑別といえるかもしれない。しかしそれにしてもこの基準に「記銘力の低下」が挙げられていないのはどうしてだろうか。また調べていくうちに、実は海馬に空砲がたくさん見られるケースがある、とか微妙な認知的な問題が回復後も見られる、などの最近の研究も出てくる。何かもっと詳しく調べたくなったが、一応この項目としてはこんな感じで書けるだろうか。

一過性全健忘(TGA)初老期に多く突然の記憶障害を持って発症し、長くとも24時間以内に回復する。発作中も自分のアイデンティティの認識は保てるが、過去の数分に起きたこと以外は思い出せず、また新たな記銘も障害される。脳血管障害のリスクとは無関係と考えられ、また予後も良好とされる。