久しぶりの解離性健忘。そんなに書いていて辛い、ということはないが、まあ楽しい仕事ではない。「何とかの手引き」の原稿なので、将来専門家が参照するために、手が抜けない。
分類
解離性健忘は、限局性健忘、選択的健忘、全般性健忘、等に分類される。
限局性健忘:限定された期間に生じた出来事が思い出せないという、解離性健忘では最も一般的な形態である。通常は一つの外傷的な出来事が健忘の対象となるが、児童虐待や激しい戦闘体験、長期間の監禁のような場合にはそれが数力月または数年間の健忘を起こすことがある。
選択的健忘:ある限定された期間の特定の状況や文脈で起きた事柄を想起できない。例えば職場で働いていた記憶はあるが、そこで上司からトラウマを受けたことを思い出せない、など。
系統的健忘:ある文脈についての記憶のみ想起できない。たとえば学校のクラブ活動でトラウマ体験があった場合、その頃の生活全般は想起できても、そのクラブ活動にかかわった顧問や仲間、あるいはその活動そのものを思い出せないということが生じる。
全般性健忘:自分の生活史(幼少時からの全体、ないしはその一部)に関する記憶の完全な欠落である。いわゆる全生活史健忘、あるいは解離性遁走と呼ばれる病態を包括する。通常その発症は突然であり、それまで通っていた職場や学校に向かう途中で多くは意識混濁を伴った解離状態となり、一定の期間(通常は数時間から数日、時には数か月も及ぶ)しばしば放浪などの空間的な移動を伴う。そして我に返った時には自分についての個人史的な情報、時には名前さえも想起できないことがあり、当人は通常は非常に大きな困惑感を持つ。しばしば器質的な異常が疑われて種々の検査(MRI,脳波その他)が行われるが、通常は何も異常を発見できない。それ以降に過去の記憶は回復する場合が多いが、それには個人差があり、時には発症の期間も含めた過去の記憶を回復しないままでその後の人生を送ることもある。事例によっては発症時までの記憶を回復するが、トランス状態で遁走していた時期の出来事まで想起することはまれである。ちなみに健忘の対象はエピソード記憶に限定され、過去に取得したスキルや運動能力については残存していることが多い。
解離性健忘をもつ人はしばしば,自分の記憶の問題に気づかない(または部分的にしか気づかない).多くの人,特に限局性健忘をもつ人は,記憶欠損の重大さを過小評価し,それを認めるよう促されると不安になることがある.系統的健忘の人は,ある特定領域の情報についての記憶(例:その人の家族や、特定の人物や、小児期の性的虐待に関するすべての記憶)を失う。