2020年7月16日木曜日

ICD-11 における解離性障害の分類 ほぼ完成

解離症
 ICD-11は2022年1月に正式に発表される予定であるが、2020年7月現在WHOのサイトで限定公開されているICD-11 Guidelines. (Disorders Specifically Associated with Stress. Schizophrenia and Other Primary Psychotic Disorders) の解離症 dissociative disorder の内容に基づいた解説を行う。2020年7月段階で提案されている解離症(6B6Z)には以下の8つの下位分類が示されている。

6B60 解離性神経症状症Dissociative neurological symptom disorder

6B61 解離性健忘Dissociative amnesia

6B62 トランス症Trance disorder

6B63 憑依トランス症Possession trance disorder

6B64 解離性同一性症Dissociative identity disorder

6B65 部分的解離性同一性症Partial dissociative identity disorder

6B66 離人感・現実感喪失症Depersonalization-derealization disorder

6B1Yそのほかの解離症 Other dissociative disorder

1. ICD-11における解離症全体の特徴

ICD-11では解離症全般に関する定義としては以下のように述べられているが、これまでのDSM, ICDによる定義とおおむね一致している内容といえる。

「解離症は、アイデンティティ、感覚、知覚、感情、思考、記憶、身体の運動または行動の統御のうち一つないしそれ以上に関して、正常な統合が不随意的に破綻したり不連続性を呈したりすることを特徴とする。※」

※「 」付きの内容はWHOにより公開されている英文の筆者による和訳である。

この解離症の定義には、薬物や神経学的な疾患による二次的なものを除外するというただし書きが続くが、本質部分はここに示されたものに尽くされている。そして上述の8つの下位分類が示されているが、そのこれらの全体の特徴について、以下の点を挙げることが出来る(Reed, GM, First, MB, Kogan, CS et al, 2019)。

Reed, GM, First, MB, Kogan, CS et al (2019) Innovations and changes in the ICD-11 classification of mental, behavioural and neurodevelopmental disorders. World Psychiatry 18(1):3-19.



ž ICD-10 及びDSM-5で「転換(変換)症conversion disorder」 などとして用いられていた「転換conversion」や「内因性」という表現が見られず、解離性神経症状症dissociative neurological symptom disorderという、より客観的で記述的な表現が採用されている。すでにDSM-5でも「変換症」に「機能性神経症状症 functional neurological symptom disorder」という表現が併記されていたが、それと歩調を合わせた形になっている。

ž ICD-10では「F44.3トランス及び憑依障害」とされていたものが「トランス障害」と「憑依・トランス障害」とに分かれた。後者は外的な憑依的アイデンティティが支配するという点が前者と異なるとされる。ちなみにDSM-5では憑依体験は「解離性同一性障害」において生じるものとされる。またDSM-5では「解離性トランス」は「他の特定される解離症」の例の一つのとして登場している。

ž ICD-10の「多重人格障害」は「特定されない解離性障害unspecified dissociative disorders」の一つとして挙げられていたが、ICD-11ではDSMに合わせた形で「解離性同一性障害」という呼称が与えられ、独立した障害に格上げされた。

ž ICD-11では新たに「部分的解離性同一性症 partial dissociative identity disorder」が掲げられているが、この障害においては、優勢な人格の意識や機能に対して、一つの人格部分としてのまとまりを欠く劣勢な人格部分が侵入を行う障害である。

ž ICD-10においては「F48. その他の神経症性障害」に分類されていた「離人・現実感喪失症候群」が新たに解離症の中に組み込まれた。

ž 「解離性遁走」が独立した障害ではなく、「解離性健忘」のもとに分類された。これもDSM-5と同じ方針である。


2. 解離症として挙げられた各障害について

次に解離症のセクションに掲載された8つの障害についての定義と補足的な説明を行う。

6B60 解離性神経症状症Dissociative neurological symptom disorder (又は 運動、感覚、認知の解離症Dissociative Disorder of Movement, Sensation or Cognition)

(省略)

6B61 解離性健忘Dissociative amnesia

(省略)
6B62 トランス症Trans disorder
6B63 憑依トランス症Possession Trance Disorder

(省略)

6B64 解離性同一性症Dissociative identity disorder

(省略)

6B65 部分的解離性同一性症 Partial dissociative identity disorder

(省略)

6B66 離人感・現実感喪失症Depersonalization-derealization disorder

(省略)

6B1Y その他の解離性障害
(省略)

以上ICD-11における解離症の全体の在り方について示した。