2020年1月9日木曜日

顕著なパーソナリティ特性 2


もう少し具体的に見よう。まずパーソナリティ障害の程度として、経度、中度、重度、と分ける。そしてパーソナリティ特性として否定的感情、離隔、非社会性、脱抑制、制縛性のどれかを上げる。またボーダーラインの傾向のあるなしを示すことが出来る。ちなみにこれからは、、パーソナリティ障害は「PD」に、パーソナリティ特性personality trait は「PT」に省略しよう。
ここからはある論文を頼りにして書いていく。Bach, B and First, M (2018) Application of the ICD-11 classification of personality disorders. BMC Psychiatry volume 18,351 というオンラインジャーナルの論文だ。そこに挙げられているICD-11 によるパーソナリティ障害の例は、こんな感じだ。
29歳女性、PDの程度は重度、ボーダーラインパターンあり、そして顕著なPTとしての否定的感情 negative affectivity、否社会性dissociality 、脱抑制 disinhibition
ふーん、ディメンショナルモデルでも悪くないか。深刻な程度、と付くだけでなんとなく大変な方、ボーダーラインパターン (+) ということでその傾向はわかるし、そうなるといつも怒っている(否定的感情)、相手のことを考えない(非社会性)、衝動的(脱抑制)ということは言わずもがな、というがわかる。後は脱抑制、とか制縛性、とかの用語のニュワンスが分かれば使いやすくなるだろう。
もう一つ別の例として次のようなものも挙げられている。
26歳の男性、PDの程度は重度、PTとしての非社会性 dissociality、脱抑制 dysinhibition と離隔 detachment
こちらは少しわかりにくいが、深刻、ということで大変な方、人に迷惑をかけて衝動的で、非社交的、ということで孤独傾向があるがはた迷惑で衝動的。ただし否定的感情という性格特性があげられていないということは、怒ったり不安がったり、という苦しんでいる様子が見られない。するとパッと目にはわからなかったが、反社会的なお方、ということが見えてくる。何しろ「否定的感情」があげられないということは本人は苦しんでいない、ということだから。
この論文には、このように示された人のもう少し詳しい様子が描かれているので、この26歳の、反社会的ではないかと疑われる人の記載を読んでみると、
「彼は暴力行為のために収監されている。彼は自分には問題はないというが、コカイン中毒の治療を求めてもいる。ICD-10の分類によれは彼は「非社会的パーソナリティ障害に、サイコパス的、自己愛的な特性を兼ね備えている」となる。彼は他人を利用すること以外には、交友関係からは何も得ていない。・・・・」ヤッパリね。でもICD-11の記号的な診断を見ても、それを「あ、反社会的な人ね」と翻訳する必要があった。ところがICD-10ではまさにそのものを言っているのだから、やはりICDの方が分かりにくい、という印象が残ってしまう。これは私のせいなのだろうか。それとも非社会性、という言葉にもう少しピンと来なくてはならないのだろうか。そこでICDが定義する非社会性 dissociality を読むと「disregard for the rights and feelings of others, encompassing both self-centeredness and lack of empathy他者の権利や感情を無視し、自己中心的で共感性を欠く」とある。そうか、非社会性というPTが書かれたことで『あ、ハンシャのひとだ!」とピンと来ていなくてはならなかったということか。だいたい非社会性という日本語が分かりにくいのだ。ということで相変わらずICD-11のディメンショナルモデルが使いやすいのかどうか、まだ揺れている。