2018年11月10日土曜日

サイコパス推敲 ①

サイコパスの部分だけまとめた。

 最近の反社会性PD(以下ASPD)の研究は主として当事者の情緒的な反応の乏しさに注目したものが多い。ある識者は、DSMにおけるASPDの定義には一つ重要な項目がかけていることを指摘する。それは冷酷さ、残酷さであり、いわば「ASPDに情緒反応の乏しさを加味したものがサイコパシーであると論じる(Kevin Dutton)。
最近のいくつかの研究は、サイコパシーの特殊な能力に向けられている。彼らが裁判の被告となった際、反省の気持ちを表すことに非常に長けていると言われ、そのために周囲がそれに混乱させられる傾向にあることが指摘される。これは彼らが本来反省の念を持ちにくいということを考えると実に不思議なことである。Stephen Porter の研究によれば、彼らは一般人とサイコパスに、ある感情を演技するように指示して、その表情の一コマ一コマを調べた結果、通常の演技では時々垣間見られる微細な素の感情の混入が見られるのに対し、サイコパスにはそれが少なかったという。つまり彼らが偽りの顔を見せる時は、演技以上の迫真性を帯びるということだ。ちなみに別の研究では、サイコパスの人たちはほかの人が嘘の感情を演技していることを見抜く力にもたけており、それは彼らが犠牲者になり得る人を見抜き、近づくという嗅覚に優れていることを示すという。
また同時にサイコパスの研究は上述の感情の欠如にも向けられる。サイコパスに関する研究はまさに、この感情の欠如という点に向けられている。サイコパスと正常人にある実験を行い、学習効果を見ると、あるタスクを間違えた場合に、電気ショックを与えても、サイコパスはそれによる学習効果が低かったという。すなわちこの懲罰に対する恐れや不安の低下が、彼らの犯罪の常習性や再犯率の高さに関連している。しかしこの実験には続きがあり、彼らがタスクを正しくこなすことで金銭を与えられたりすると、これには俄然反応したという。そこで彼らに覚せい剤を与えたところ、サイコパスは、正常人の4倍のドーパミンを分泌したという。すなわち報酬に対する強い希求と処罰への鈍感さが、彼らを特徴づけていることになる。
サイコパスの持つこの「クールさ」は、ASPDにとって適応的に働いているという点が注目されている。大平らの実験によれば、最後通牒ゲームで彼らが最終的により多い利益をあげる一つの理由は、ゲームで相手からの扱いにより腹を立てることがないせいであるという。そしてこのことは、二重スパイとしての能力にも共通しているというのだ。さらには彼らのそのような能力は株の売買にも生かされ、トレーダーとしての才能を有するともされる。
このことから最近言われるのは、サイコパスには二種類あり、低機能のサイコパスと高機能のサイコパスが考えられるのだ。前者は衝動性が高く、みずからへの報酬を先延ばしが出来ないタイプで、殺人やその他の凶悪犯罪を犯し、いずれは投獄される運命にある。ところが高機能のサイコパス、いわゆる機能的なサイコパスfunctional psychopath はむしろ人をうまく利用し、最終的には自分の利益につながるように自分の行動を制御できる。そしておそらく社会で成功を収めた多くの企業主や政治家がこれに該当しているという。この説を唱えたロバート・ヘアの研究がかなりセンセーションを起こした。スコット・リリエンフェルドは、これまでのアメリカ大統領の自伝作者に対して自分たちの描いた元大統領たちがどのくらいの反社会性を備えているかについて尋ねてみた。するとかなりの大統領経験者に反社会性が見られるということになった。いわゆるサイコパス・パーソナリティ・インベントリーPPIの二つの次元、つまり恐れを知らない支配欲 ,そして衝動的な反社会性について、JFケネディー、ビル・クリントンに高い値が見られたという。