同一化は、いわばコピーの能力であるが、ファンタジーはそこに自分の側からの加工が加わる。少年が忍者タートルと同一化して,その一員のように振舞う為には、そこに新たなストーリーを作り上げて、その中で遊ぶ必要がある。そう、ここでミラーニューロンに支えられたコピー能力と、ファンタジー能力を二つ分けておいたのを記憶しておいていただきたい(誰も記憶しないって!)
ということで再びガイドラインに戻ろう。192ページのepidemiology(疫学) についての項目。精神科の患者のうち1~5%がDIDの診断基準を満たすという。ということは実際の人口ではこれよりかなり少ないということになるか。私はここら辺に異論はない。そしてそれらの患者の多くがDIDとは診断されていず、その原因としては、臨床家の教育が行き届いていないから、とある。大部分の臨床家は、DIDが稀で、派手でドラマティックな臨床症状を呈すると教育されているという。しかし実際のDIDの患者は、明らかに異なる人格状態を示す代わりに、解離とPTSD症状の混合という形を取り、それらは見かけ上はトラウマに関連しない症状、たとえば抑うつやパニックや物質乱用や身体症状や食行動異常などにはまり込んでいるという。そして診断はこれらのより見かけ上の診断を付けられ、それらの診断に基づいた治療がなされた際の予後はよくないという。ここら辺は事情は日本とほとんど変らないと言うことか・・・。ただし一つだけ異論あり。DIDの人で臨床上問題となる人はしばしば鬱を併発しているが、鬱の治療って大事だと思うけれど。
さてNOS(他に分類できないもの)についてはどうか。臨床現場で出会う解離性の患者の多くはNOSの診断を受ける。ここには実際はDIDだが診断が下っていない場合と、DIDに十分になりきっていないタイプとが属するという。
さてNOS(他に分類できないもの)についてはどうか。臨床現場で出会う解離性の患者の多くはNOSの診断を受ける。ここには実際はDIDだが診断が下っていない場合と、DIDに十分になりきっていないタイプとが属するという。
後者に関しては、複合的な解離症状を伴っていて、内的な断片化がある程度生じていたり、頻繁でない健忘が生じているものの、もうちょっとでDIDにいたっていないという場合であるという。ここら辺も特に異論はない。ただし私の感想としては、DIDの人は、人格が精緻化されるという方向にまで普通は行き着いているようである。人格の精緻化のプロセスは、いったん始まったらあとは半ば自動的に起きるプロセスといえるのではないか?
私の印象では人格の精緻化が、かなり急速に進むタイプと、一定以上は進まないタイプがあるようである。それは人格に特異的というよりは、患者さんに特異的である。例の「顔に目鼻」の比喩を用いるならば、典型的なDIDの患者さんの中で目鼻のない状態なのは黒幕さんだけで、あとはたいていかなりはっきりとした目鼻がついている。ところが解離性遁走の場合には、DIDに「併発」していない限りは目鼻がはっきりしない方のほうが多いようである。
さて施すべき心理テストはたくさん書いてある。以下頭文字のみ。SCID-D, DDIS, MID, DES, DIS-Q, SDQ-20.・・・本当に彼らはたくさん作るな。欧米人は肉食だから。私はちなみにほとんどこれらを使ったことがない。患者さんの負担も考えないとね。