2014年4月14日月曜日

解離の治療論 (30)欧米における解離の治療論(4)

 B状態にある人格に目鼻が書き込まれ、名前が与えられるというのはつまり、DIDで比較的典型的に見られるような、プロフィールのはっきりした交代人格状態にまで成長しうるということを比喩的に表現している。ではどうして子どもはB状態をそこまで精緻化できるのか?私には一つの仮説がある。それは子供の同一化の能力だ。子どもはアニメのキャラクターに「なりきる」ことが出来る。アメリカで「忍者タートル」という番組をやっていたが、幼かった息子は番組を見ながら本気になって登場人物と同じように鉢巻をして敵に向かってかまえる仕草をしていたのを思い出す(息子よ、また例に出してすまん)。
 この種の「なりきり」は成人の同様のそれよりワンランク高度なものである。いや、ワンランク、なんてものではない。別格なのである。
 ここで思い出していただきたいのが、言語の習得のプロセスである。子どもが母国語を話し出す際は間違いなく模倣のプロセスを含むが、彼らの発音やイントネーションは完ぺきなそれになっていく。これは外国語の習得と明らかに違う。中学生になり、英語の教師の口真似をして人工的に学んでいく際は、真似をしているだけなのだ。私は自分が英語を話す時は常にfalse selfであることを自覚せざるを得ないが、どこかに「にせもの」感があるのは英語の習得が「なりきり」の段階を経ていないからなのだ。
 どうして子どもは自然に「なりきる」ことが出来るのか。おそらくミラーニューロンの活動の程度が極めて高いからであろう。子どもにとって最も重要なプロセスの一つは、大人の模倣をし、意思伝達を行う言語を獲得することである。その為のミラーニューロンの活性の程度は並外れているのであろう。そしてそれは思春期の到来とともに低下して行く。子どもは日本人になったうえに、外国人になる必要はあまりないわけだ。アイデンティティは取りあえず一つあればいい。それ以上あるとかえって混乱するだろう。その為にも周囲に同一化してなりきる能力はある程度抑制されていかなくてはならない。
 B状態が人格として成長する能力にも、周囲の何らかの表象を取り込み、それを自分のものとして精緻化して行くというプロセスにはミラーニューロンの活動が欠かせないのであろう。例えば母親にとって「いい子」の人格を形成するためには母親が理想の子どもとして思い描いているであろうイメージを取りこみ、同一化する能力が必要なわけだ。
 昨日のブログでは、子供の脳のIPS細胞的な性質、という言い方をしたが、IPSPとは pluripotent (数多くの可能性を持つ)であり、周囲に合わせてどのような形をもとれる、という意味だ。

ところでこう考えて行くと、同一化、なりきりの力と同様に重要になってくるのが、子どものファンタジーを抱く能力である。