2014年4月16日水曜日

解離の治療論 (32)欧米における解離の治療論(6)


 さて肝心の治療論に近づいているが、こんな興味深い記載もある。

「医原性のDIDについてはかねてから活発な議論があった。しかし専門家の間ではこのことはつよく否定されている。」
DIDの症状の全体にわたって、医原性に作られたということを示すような学術論文は一つも出されていない。」
うん、心強い記載である。しかし「ただし・・・・・」と続く。
「他のいかなる精神科的な症状と同様、DIDの提示は、虚偽性障害や詐病である可能性がある。DIDをまねるような強い動因が働く場合には注意しなくてはならない。たとえば起訴されている場合、障害者年金や補償金などが絡んでいる場合。
ここに書かれているのは事実かと思うが、やはりDIDは詐病との関連が指摘されることが多いのはなぜなのか? 例えば統合失調症についての鑑別診断に、詐病や虚偽性障害が言及されるだろうか? おそらくないだろう。ところが解離性障害となるとこれが出てくる。では実際に多いのだろうか? 私の感覚では決して多くない。というより私の経験では、DIDが鑑別診断上問題となった数少ないケースは、概ね統合失調症の方である。もちろん誰かが演技をしてDIDを装うことはできるであろう。でも同様に統合失調症を、PTSDを、パニック障害を装うこともできる。それにプロフィールの複雑さを考えるとしたら、DIDを真似するより、統合失調症やPTSDやパニック障害を真似する方が容易である気がする。
 DIDを装うとした場合、ではその理由、ないしは利得はなんだろうか?これもあまり大したことはないだろう。障害者年金だろうか? 私は患者さんの障害者年金の申請書を書く場合、「解離性障害」だけでは説得力がないことを知っている。なんといっても統合失調症、うつ病などが障害の重みを伝える診断名である。だからそのためにDIDを装う根拠はほとんどない。
 では犯した犯罪の責任を逃れるためか?しかし裁判で「あの人を害したのは、私の中の別の人格です」という主張が通ることは普通はないのである。裁判官に一笑に付されてしまう可能性が高い。とするとDIDが詐病と関連付けられる外的な理由は事実上ないことになる。というよりも誰が、これほど誤解と偏見の伴うDIDを好き好んで装うのだろうか?
ということで結論。

解離性障害の性質として、詐病や虚偽性障害を疑われやすいという特徴があると考えるしかないであろう。もうその種の扱いを受けることがDIDの性質そのものなのだ。