男性の性加害との関連で、「戦争と文化的トラウマ 日本における第二次世界大戦の長期的影響」(竹島 正, 森 茂起, 中村 江里 (編) 日本評論社、2023年.)を少しずつ読んでいるが、そこに加害による心的トラウマの話が出てくる。確かに戦時中に上官の命令により敵地で民間人を撃ったという体験が亡霊のように付きまとうという心的外傷を負った戦闘兵が沢山いる。この意味での「加害トラウマ」という用語はすでにあるようだ。 加害トラウマと男性性の悲劇性との関連で言えば、男性は常にその存在により既に加害性を負っているという感覚がある。これはちょうど女性が男性を見るとそこに潜在的な加害者像を投影するというのと表裏の関係にあるかもしれない。どこかのビーチでビデオを回していた人が盗撮の疑いをかけられたという話を聞いた。あるいは電車で向かい側に座っている女性を携帯で写したところ、その女性の男性のパートナーに糾弾されたというような話も聞いたことがある。 これについて調べていると、弁護士ドットコムニュースにそれについての記載があった。少し長いが、私にとってはとても有益な情報なので引用する。https://www.bengo4.com/c_23/n_8410/
電車の座席にいる人の顔を盗撮することは、犯罪になるのでしょうか。「電車の座席にいる人の顔を盗撮したとしても、基本的に犯罪になりません。
まず、日本の刑法には『盗撮罪』はありません。また、軽犯罪法では『他人が通常衣服を着けないでいる場所をのぞき見る』行為を処罰していますが(同法1条23号)、電車の座席に対する撮影は該当しません。
なお、軽犯罪法では『公共の乗物で乗客に対し著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかける』行為を処罰しています(同法1条5号)。しかし、制止を振り切って顔を撮影したのであればともかく、ひそかに顔を撮影するのはこれに該当しないでしょう」。
●「迷惑防止条例」に違反しない?
盗撮は、各都道府県の迷惑防止条例違反になると聞いたことがあります。電車内で人の顔を盗撮する行為は、迷惑防止条例に違反しませんか。
「確かに、迷惑防止条例では一定の盗撮を犯罪としていますが、人の性的羞恥心を害するような行為であることが前提です。規制内容は都道府県で多少異なるものの、たとえば、東京都の『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例』では、
(1)通常衣服の全部または一部を着けない状態でいる場所、または公共の場所、公共の乗物等において、
(2) 通常衣服に隠されている下着または身体を、
(3)撮影し、または撮影目的で写真機等を差し向け、もしくは設置する
行為が処罰されます(同条例5条1項2号、8条1項2号、同条2項1号)。
電車の座席にいる人の顔を盗撮しただけであれば、通常衣服に隠されている下着や身体を撮影したわけではないので、迷惑防止条例に違反しません。
また、迷惑防止条例では『公共の場所や公共の乗物での卑わいな言動』も処罰していることが多いです。
ズボンを履いた女性の背後から、お尻を中心として11回撮影した行為が、卑わいな言動に該当し、北海道の迷惑防止条例に違反するとされた事件もあります(最高裁判所平成20年11月10日判決、刑集62巻10号2853頁)。
しかし、質問のケースは、人に性的羞恥心を与えるものではないので、卑わいな言動にも該当しません」。
何か当たり前のことを言われているようだが、少しモヤモヤがとれる。女性を見るだけでも加害行為ではないか、と懸念する男性にとっては少し安心する内容だ。
だいたい人間同士が暮らすということには既に、素顔という形でのプライバシーをお互いに晒し合うことを前提としているのだ。さもなければイスラム世界のように女性はヒジャーブ hijab で顔を隠す必要が出てくるだろう。
しかしそれにしてもイスラム教の世界観は、女性が男性から性的に見られるということを前提としているかのようで、興味深い。コーランでは「貞節な女性たちに『目を伏せ、プライベートな部分を守り、(魅惑させないよう)飾らず』」と書かれているという。そして「ヒジャーブは女性が男性から性的な眼差しを向けられることを妨げ、男性が誘惑に負けて罪を犯すことを防ぐ役割がある」というのだ。つまりイスラム世界では女性の素顔を写真にとることはすでに「盗撮」ということになるが、その際に素顔をさらした上の女性も男性に劣情を起こさせたという意味で罪が問われるというところが男尊女卑の世界観を表していると言えるだろう。