2019年10月21日月曜日

べき乗側が支配する 推敲 3


この説明からわかることは次のことだ。揺らぎとは、実はこのロングテールの長い尾に属する事柄を時系列に並べたようなものなのだ。何しろここが圧倒的に長いので、ロングテールの本体部分はむしろこちらなのである。単純な小川のせせらぎなどはこの部分だし、風に揺らめくカーテンや旗もこの部分だ。日常はこれがほぼ永遠に続くように感じられるので、これを「揺らぎ」等とのんびり表現しているわけである。ところが実際はロングテールの頭に属する部分も時々顔を出す可能性がある。だから揺らぎは突然巨大化する可能性を持っているのだ。揺らぎはどんなに規則正しい波のように見えても、正確な正弦波や同じサイズのジグザグではない。それは時に大きく、時に小さくなり、突然とんでもない大きさの揺れを可能性として含む。ここで「可能性として」というのは、それは実はめったに起きないからだ。でも起きる時は起きる。そんなことが起きてもおかしくないことを予告するかのように、揺らぎは最初から不規則で、予想が不可能なのだ。ここら辺の事情は、株価の動きに敏感な人は身に染みてわかっているだろう。
地震の話に戻って考えよう。地面は常に揺らいでいる。それはおそらく地殻のどこかで小さな岩がずれるということが起きているために起きる。つまりはプレート同士が少しずつズレながら動いている、という、ある意味では不安定な状況が生じているからだ。(地殻やプレートが全く動いていないのであれば、地震など起きようもない。)
 地面の揺らぎと地震の本体
さて小さな岩のずれはいたる所で起き、大抵はそれで収まってしまう。微震としてすら観測されないかもしれない。ただし稀に、近隣の別の不安定な岩に波及して、連鎖反応を起こすことがある。これが起きるのはある意味ではすべての岩が同じように不安定だからだ。そしてその二つの岩が連鎖的に動くことでその安定が治まることになるだろう。大抵の場合はそうなのだ。ところがそれが三つ目の岩を巻き込んだ少し大きな揺れで収まる場合も出てくる。そしてもっと稀に、それが四つ目の岩を巻き込んで少し大きな動きを起こすこともある。もうこうなると小さな地震と言ってもいい。すると時には劇的なことが起きかねない。それは別の場所の同じような連鎖反応を立て続けに起こすことである。そんなことはめったに起きることはないが、起きる時は起きる。こうしてその極端な例が巨大地震となる。そしてその時に連動して動く岩のサイズと、その起きる頻度にはある重要な関係がある。つまり両方の対数を取ると逆比例しているのだ。これがグーテンベルグ・リヒター則というわけだ。
とまあなんとなくわかったような説明をしたが、実はこれでは本当に分かったことにならない。もう少し思考実験を続けよう。
先ず小さな岩が動く、という言い方をしたが、この「小さな岩」が曲者だ。その平均の大きさは? もう皆さんもお分かりだろう。おそらくそんなものはない。先ほどの天体の大きさと同じ議論により、岩の大きさに典型的なものはない。まあ「岩」と言えば数センチから数メートルくらいを言うだろうが、それはそのくらいの大きさの石を岩と呼んでいるからだ。この世界の鉱物をすべて集めて行列を作ったら、天体と同じようなロングテールを作るだろう。それを言い出したらどうしようもないので、ここは最小の単位を考えざるを得ない。そこで直径0.1ミリの砂粒を最小単位とする。岩石はそれが固く押し固められたものだ。そして最初に岩がずれて動いたというシーンをビデオに収めよう。それには時間を延ばしたり、対象を拡大したりする機能がある。するとおそらくずれた岩と岩の間で起きていることにズームインすると、それは岩全体が突然動いたのではなく、最初はこぐ微小な部分のずれによる破片の生成が、ズレた部分のどこかで起きていることがわかる。ズレが起きた数センチの部分をさらに拡大してみると、そのうちのごく一部がまず最初に動き出して、それが全体に波及したことがわかる。さらにその部分を拡大してみると・・・・。結局は最小単位である砂粒大のずれが起きていたことがわかる。そう、この最初の岩のずれは、ミクロのレベルで見れば大地震なのであった。もしそこに住んでいるアリがいて、その体験を語ってくれたら、「いえね、いつもちょっとした揺れなら起きているんですよ。でもあんな大きな揺れは久しぶりでした。ここで起きている揺れは大体ロングテールですからね。あんなのはめったにありません。」アリ君がどれだけ賢いかわからないが、一つ確かなことは、ほんの小さな岩の揺れは、彼らにとっては大地震だったということになる。