2026年1月9日金曜日

PDの精神療法  新たに書き直し 4

 各論

 1)BPDの精神療法

BPDの精神療法に関しては、これまでにさまざまなアプローチが提案され、その効果についてのエビデンスが示されているものも多い。いわば「あらゆる治療法が効果的となりうる」という印象さえ受ける。しかし共通して言えるのは、良好な治療同盟の成立が治療効果をうらなう最も重要なファクターの一つであるということである。またそれらはいずれもBPDの脳内基盤と考えられる扁桃核の機能亢進とそれに伴う前頭前野の活動低下を緩和する方向に働いていると考えることが出来る(Gabbard, 446)。ただしBPDの精神療法の効果について論じることの難しさは、患者の多くがうつ病などの併存症を有していることにある。Fonagy, 206)
現在BPDの治療として無作為化対照比較試験 (RCT)による有効性が確かめられているのは複数あるが、このうちのいくつかについて、以下に述べる。

MBT(mentalization-based therapy メンタライゼーションに基づく治療)の治療の要は、患者のメンタライゼーション機能の強化である。BPDの治療に際して、患者は治療者に対する転移的な受け取り方を、いくつかある可能性の一つとして考えるのではなく、それが現実に根差したものであると考える傾向にある。すなわち彼らはふりをするモードpretend mode に入り転移関係の中で「遊ぶ」ことが難しいからである。患者が治療者に対して挑発的になったり、怒りや被害感を表明した場合には、治療者も余裕をなくして自身のメンタライゼーションの力を一時的に損なうことになりかねない。そのような場合には治療者はそれに対する指摘や解釈を行うよりは、できるだけ患者の気持ちを語ってもらい、必要に応じて治療者自身の気持ちを表すことで互いのメンタライゼーションを高め合うことが出来るであろう。Bateman and Fonagy, 2004)。Bateman AW, Fonagy P(2004)Psychotherapy for Borderline Personality Disorder: Mentalization-Bsed Treatment. Oxford, UK,Oxford University Press.狩野力八郎、白波瀬丈一郎監訳 (2008) メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害 岩崎学術出版社.

TFP(transference-focused therapy 転移焦点付け療法)Otto Kernberg (1984) BPDの精神分析的な治療概念に基づき発展した(Clarkin et al 2007) 。TFPでは患者の抱く心的表象の偏りは内在化された養育者との愛着関係に由来し、それが治療者との間で転移の形で再体験されると考え、その点では上述のMBTに類似する。しかしTFPにおける主たる治療技法は、患者と治療者との間で展開する転移関係の明確化、直面化、および解釈であり、特に患者の攻撃性や敵意などの陰性転移を早期から扱うことが重要とされる。セッションは週2回行われ、治療契約と明確な治療の優先順位に基づいて構造化された枠組みを持つ。

Clarkin, J.F., Levy K.N., Lenzenweger M.F. et al .: Evaluating three treatments with borderline personality disorder: a preliminary mu1ti-wave study of behavioral change. Am J Psychiatry 164(6);922-92. 2007
Kernberg, O.:Severe Personality Disorders: Psychotherapeutic Strategies. Yale Univ Press 1984(西園昌久: 重症パーソナリティ障害―精神療法的方略. 岩崎学術出版社, 東京, 1997)

DBT(Dilalectic behavioral therapy 弁証法的行動療法)は米国のMarsha Linehan (2006) により自殺傾向の強いDBTの患者を対象に開発された認知行動療法の一種である。米国精神医学会によりBPDの治療として推奨されているが我が国での普及は十分とは言えない。DBTにおいては患者は問題解決のための感情調節のスキルを学ぶとともに、自身に対する妥当性を承認される環境を与えられる。治療は個人療法とグループスキル・トレーニングなどの複合的な構造を有し、このうち後者ではマインドフルネススキル、対人関係保持スキル、感情抑制スキル、苦悩耐性スキルを高めることが目指される。

Linehan M.M., Comtois, K.A., Murray, A.M. et al. :Two-year randomized controlled trial and follow-up of dialectical behavior therapy vs. therapy by experts for suicidal behaviors and borderline personality disorder. Arch Gen Psychiatry 63(7);757-766. 2006

遊佐安一郎、 宮城整ほか (2019) 感情調節困難の家族心理教育―境界性パーソナリティ障害,神経発達障害,摂食障害,物質関連障害,双極性障害などで感情調節が困難な人の家族のために― 精神経誌 第121巻第2号 pp131ー138

DDP(Dynamic Deconstructive Psychotherapy 力動的脱構築精神療法)は、BPDの社会での対人関係に焦点づけられた精神療法である。この治療法は、対象関係理論や神経科学、脱構築哲学などを盛り込んだ治療指針を有し、問題解決やアドバイスではなく、問題の背後にある脆弱さに注目し変革的な癒し transformative healing を提供するものとされる。週に一度のセッションだけでなく、毎日の対人交流シートを活用することを求められる。
Gregory RJ,De lucia-Deranja E, MogleJA (2010) Dynamic deconstructive psychotherapy versus optimized community care for borderline personality disorder co-occurring with alcohol use disorders: 30 months follow-up. J Nerv Ment Dis 198:292-298.