今溜まっている書評の3つ目がこれである。
本書「トラウマと解離の文脈 ピエール・ジャネの再発見」は、原題が Rediscovering Pierre Janet であり、訳書の副題に対応している。表紙カバーではこちらの部分は小さく書かれていて、一見解離とトラウマに関する専門書と見間違いやすいが、まさしくジャネについての解説書である。邦訳書の題としてこちらを選ばなかった理由は分からないが、おそらくジャネの名が日本人の読者にはまだなじみが深くないという懸念かもしれない。 しかしそれはともかく、本書は日本の精神医学において極めて大きな意味を持っている。それは解離やトラウマについての専門書という以外にも、特に精神分析とかかわりを持つ読者にとってもそうである。筆頭訳者である若山氏が序文で雄弁に述べているように、精神分析の隆盛は、現実のトラウマの存在の軽視と表裏一体の関係にあった。実はフロイト自身が幼少時の性的トラウマをヒステリーの病因として特定し、「ナイル川の水源の発見」になぞらえたことがその証左である。いったいフロイトがなぜそれを途中で断念したかは謎であるが、今はそこに関わってはいられない。 本書の驚くべきところは、ジャネが最近のショアやポージス、ブロンバーグの議論にまでつながって論じられていることで、いわばジャネの理論が刷新されていることだ。ジャネのいわゆる現実機能 fonction du reel とメンタライゼーションは近いといい(129)、それは結局は最近言われる解離における右脳の機能低下、ショアによれば右脳の高位と低位の統合の失敗を反映しているという。