2026年1月18日日曜日

ショア書評 ①

 アラン・ショア著小林隆児訳「精神療法という技法の科学」(遠見書房、2025年)

依頼文にはこうあった。「本書は,神経科学の飛躍的な進化から生まれた対人関係神経生物学をもとに,精神療法(サイコセラピー)のアート(治療技術)の科学性を解き明かし,古典的な心理理論を捉え直し,より科学的な精神療法のあり様を考えたアラン・N・ショアの大作です。」まさしくその通りである。

ただネットや店頭でこの大著を目にした読者はこう考えるであろう。「確かにアランショアという名前は最近よく聞く気がする。確か小林先生という方が入門書を書いただろう。それに「右脳精神療法」とあともう一冊、薄い本が翻訳されている。まずそちらを読もうか。」確かに小林先生の労作以外にもう一冊が翻訳されていて、それらを置いて本書を購入するのは屋上屋を架すという印象を与えるかもしれない。しかし本書は極めて充実した内容で、入門書を読みもう少し内容を詳しく知りたい人間にはうってつけである。そしてそれは私自身の体験でもあった。


本書「精神療法という技法の科学」The sciene of the Art of Psychotherapy (2012)はショアがこれまで出した6冊の著作のうち4番目に相当し、彼が考える精神療法(感情調整療法、のちに右脳精神療法という呼び名に改められる)について詳細に論じたものであり、そこで鍵を握る右脳の機能について特に詳しく論述されている。同じ小林隆児氏の手による「右脳精神療法」(2022年に発刊)と共にショアの臨床理論を知るためには非常に重要な書である。

翻訳者の小林隆児氏は、2022年にショアの最新作「右脳精神療法」を訳出した後、その理解を深めるためにも、ショアの「感情調整三部作」の次の第4作目である本書を日本の読者に提供することが必要であると感じたとのことである。

本書は574ページとかなり分厚いが、英語の原書で458ページというボリュームである。それだけに本訳書の出版先を探すことにも小林氏は難渋したというが(訳者あとがき)、本書は内容も極めて緻密でショアの驚くべき生産性(それは本書を訳した小林氏にも通じることかもしれないが)を感じさせる。本書を通読した読者はそこに盛られている情報量に嘆息するのではないか。(少なくとも私はそうであった。)最終章のマッキントッシュとの対話にも表れている通り、ショアの頭には、莫大な情報量に元ずく体系が渦巻いているようだ。それは最新の脳科学が示す生後一年の驚くべき脳の感受性とその脆弱性への理解を基盤とした愛着理論に根差した養育や臨床の在り方についての知識や思考である。この驚くべき頭脳が生み出し続ける著作は各方面に大きな影響力を及ぼしつつ、現代的な人間理解や精神病理に関する一つのパラダイムシフトを提案しつつある。私たちはこの「アメリカのボウルビイ」の異名を持つという(503)ショアの偉大な精神に非常に多くを負っているのである。