2025年10月19日日曜日

解離症の精神療法 推敲 4

  DIDの治療としては、従来より治療者は患者にかつて生じた外傷体験を一つ一つ除反応していくことにより、記憶の空白が埋められて行き、人格同士の交流が進み、最終的に人格の統合が行われるというプロセスが描かれている。しかし実際には複数の人格が安定した形で共存することの重要性も指摘されるようになっている。(Howell, 野間、岡野)。現在多くのテキストで以下のような3段階説が提唱されている。DID の個人療法についてISSDのガイドラインを参照しつつ3段階に分けて提示する。

第1段階  安全性の確保、症状の安定化と軽減

治療の初期の目標はは、何よりも安全、安心な治療関係の成立が大切である。最初は異なる人格の目まぐるしい入れ替わりが生じている可能性がある。この段階においては、患者に安全な環境を提供しつつ、表現の機会を求めている人格にはそれを提供し、それらの人格をひとまず落ち着かせることも必要となろう。治療者は患者とともに、別の人格により表現されたものを互いにどこまで共有することが出来るかについて模索する。時にはそれぞれの筆記したものを一つのノートにまとめたり、生活史年表を作成したりするという試みが有効となる。治療は週に一度、ないしは二週に一度の頻度が望ましい。なお過去のトラウマについて扱うことにはこの段階では慎重であるべきであろう。ただしそれがフラッシュバックの形で体験されている際にはその症状の軽減のための方策は望まれる。

第2段階 トラウマ記憶の直面化、ワーキングスルーと統合 

安全な治療環境が整うに従い、それぞれの人格が抱えたトラウマ記憶が語られたり、そのフラッシュバックが生じ易くなる場合がある。それらのトラウマ記憶は夢によって再現されたり、日常接するメディアや映画、小説などに触発されることもある。治療者は適切な判断をもとにそれらが再外傷体験を導かないように注意しつつ必要な勇気付けは行ない、トラウマ記憶が徐々にナラティブ記憶に改変されることを手助けすることが望ましい。そしてそれによりフラッシュバックの頻度が減り、特定の人格による行動化が抑えられることにつながる可能性がある。ただしトラウマ記憶を扱う際には、人格ごとにそれについての意見が分かれたり、セッションの前後で患者が不穏になる可能性を認識すべきであろう。その場合はトラウマの扱いを一時留保することも必要になる。
 なおこの第2段階でトラウマを扱うことが治療者にとっての義務のようにとらえられることで、かえって患者への負担になることは避けなくてはならない。トラウマを扱うということはトラウマ記憶を抱えた人格と交流するということであり、その詳細を探る事では必ずしもないことに治療者は注意すべきであろう。

第3段階 統合とリハビリテーション、コーチング


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