今回の対談と同時並行的に様々な文献に当たりつつ思ったのは、男性の性の問題は複雑多岐であり、かなり込み入った問題であり、その多くは解明されず、語られることは少ないということである。そしてこの「一見普通の男性の豹変」の問題はほとんど論じられてこなかったということだ。
すこしここで問題を整理してみたい。男性の性の問題は精神医学の世界でももちろん議論の対象となっていることは確かである。その点は確認しておきたい。それは一種の精神障害としてとらえられ、概ね二つに分類される。それらは①パラフィリア(性嗜好異常)、②性依存の二つである。
先ず①に関しては以前は性倒錯という呼び方が一般的であったが、1980年のDSM-III以降 paraphilia パラフィリアという呼び方に代わった。(para = deviation philia attraction という意味)それは「倒錯 perversion」という呼び方が有する差別的な含みが問題とされた結果である。パラフィリアは性的な興味が通常とは異なる行為や対象に向かうことであり、露出症、フェティシズム、窃触症、小児愛、性的マゾヒズム、性的サディズム、服装倒錯的フェティシズム、窃視症などが挙げられる。これらは極端に男性に偏る傾向にあり、おそらく男性の性愛性の持つ何らかの特徴に関係していると思われる。
このパラフィリアは性加害とどのように関係してくるかはケースバイケースといえよう。つまり本来のテーマである「一見普通の男性の起こす性加害行為」にも関係してくる可能性がある。なぜならこれらは多くは異性を対象としたものであり、そこに相手の了解が得られずに衝動的に行われる可能性が高いからである。(たとえば相手に合意を得た上での露出行為や覗き、という行為が考えにくいという風に。)