私がここに提示するのが、二つのモデルである。これらはある意味では重複しているため、まとめて「自己強化ループモデル」と呼ぶことにするが、一応別個のものとして論じることから始める。ちなみにことわるまでもないが、これらは性依存や強迫的性行動とはいちおう別の議論である。 この自己強化ループモデルの特徴を一言でいえば、性行動はいったん始動すると、途中で止めることが難しい、という現象を説明するモデルであるということだ。
ここで改めて、この自己強化ループモデルを構成するのが以下の二つの理論である。
① ポジティブフィードバック理論
② インセンティブ感作理論 incentive sensitization
theory (IST)
① ポジティブフィードバック理論
私たちが「フィードバック」という言葉から一番連想しやすいのが、いわゆる「ネガティブフィードバック」だ。これはとてもよくあるシステムで、生命体が安定化に向かうためのあらゆる仕組みに関わっている。例えば体温や血圧や血糖値などはみなこのシステムにより調整されている。簡単な例としてはサーモスタットのようなものを考えるといい。温度が上がるとバイメタルが曲がってスイッチが切れる。そして温度が低くなるとバイメタルが元通りに戻ってスイッチが入る、というように。
このネガティブフィードバックがいかに必要かは次のような例を考えればいい。お腹がすいたから食事を摂る。すると空腹感は次第に癒され、最初は旺盛だった食欲は低下し、次第に食事を見るのも嫌になり、摂食行動は終わる。その細かいメカニズムはおそらくかなり複雑だが、だいたい私たちの食行動はこのようにしてバランスが取れている。
ここで思考実験だ。ある人は空腹なのでお菓子を口にすると、さらにお腹がすいた気分になり、もう少し食べたくなるとしよう。そして食べた分だけもっと食べたくなり、最後にはお腹がはちきれんばかりになってもさらに食欲が加速し、最後には胃が破裂してしまう。これは想像するだけでも実に怖ろしい現象であり、たちまち生命維持に深刻な問題を起こすことは間違いない。あるいは血圧が少し上昇すると、それをさらに押し上げるようなホルモンが産出され、最後には脳出血や心不全を起こしてしまうという例でもいい。
この悪魔のようなプロセスは、実はポジティブフィードバックを描いたものである。普通は生体には起きないことだが、私たちは過食や飲酒などがそのようなループにより歯止めが効かなくなりそうな状態が存在することを知っている。
ここで気が付くのは、ポジティブフィードバックはそれが生じたとしたら、生体は行くところまで行ってしまい、元のバランスには戻れないであろうということだ。ある種の破局的、ないしは一方向性の現象が起き、行くところまで行って戻ってこれない。これは例えば排卵のプロセスに当てはまる。