2025年7月29日火曜日

FNDの世界 7

FNDの歴史について論じるわけであるが、上述の通りFNDは新しい概念である。その実態は「神経系の機能的な問題によって、運動、感覚、認知機能などに症状が現れる疾患。脳や神経の器質的な損傷や病気がないにも関わらず、神経系の情報伝達に誤作動が生じること。」もっと簡単に言えば、「病気であるという確証がないのに神経の症状が存在する状態」である。野間先生の絶秒な定義を借りると、「身体医学的には説明困難でおそらくは心因が関与している、感覚運動の障害」となる(野間、2020, p.178)。こっちのほうがずっといいな。そしてこれにほぼ該当するのがいわゆる「転換性障害 conversion disorder」である。しかしこれもDSM-Ⅲ(1980) によりかなり洗練された体裁を与えらえたものであり、それ以前は「転換ヒステリー」と呼ばれていたものである。そこで結局はFNDの歴史を語るにはヒステリーから出発しなくてはならないことになる。ヒステリーという概念が含む症状は実に多彩であるが、少なくともその一部の神経症状を呈するものに対して、この「転換ヒステリー」という用語が用いられていたのである。
ヒステリーは人類の歴史のかなり早期から存在していた可能性がある。その古さはおそらくメランコリーなどと肩を並べるといってもいい。ヒステリーに関する記載はすでに古代エジプトの時代すなわち紀元前2000年ごろには存在していたとされるのだ。

       <以下略>