2025年7月23日水曜日

対談を終えて 1

 (略)

 今回の対談で様々な文献に当たりつつ思ったのは、男性の性の問題は複雑多岐であり、かなり込み入った問題であるということである。そしてそのうえで言えば、「一見普通の男性の豹変」の問題は、あまり、あるいはほとんど論じられてこなかったということだ。  男性の性の問題は様々に論じられているのは確かだ。それは概ね二つに分類される。一つは臨床上しばしば問題となるポルノ依存などの性依存症の問題である。これは他人を巻き添えにすることは必ずしもない。多くの場合自分で苦しみ、その結果として家族なども巻き込むことになる。そしてもう一つは覗きや痴漢などのいわゆる変態行為(パラフィリア)である。このうち前者に関してはどのような診断名を用いるかについては専門家の間でも分かれているが、WHOの発行するICD-11(2022年)には、CSBD(compulsive sexual behavior disorder 強迫性性行動症)として記載されている。また後者はいわゆる paraphilic disorder (日本語ではパラフィリア障害群)としてICD-11にもDSM-5にも記載されている。ところが「一見普通の男性の豹変」は、これらと多少の関連はあるものの、基本的には別の問題なのである。それはそのような特別な障害を有するわけではない、ごく普通の(あるいは表面上はそのように見え、また社会でもそれなりに適応している)男性が侵す性加害の問題である。  なぜそのような問題について論じる必要があるかといえば、この問題が臨床上もっとも重要な問題を呈するからである。というのも臨床で出会う性被害の犠牲者たちが最も頻繁に口にするのは、それまで信頼に足る存在とみなし、また社会からもそのように扱われていた男性だからなのである。彼らの行動を知った周囲の人の多くは、その男性がなぜ性加害を及ぼすのかがわからない、という反応を示す。それほど見えにくく、わかりにくく、しかも十分な学問上の考察がなされていない問題が性加害に深く関係しているとすれば、その問題の性質を知り、性被害の犠牲者になることを防ぐためにはそれなりの手段を講じることが出来るであろう。