2025年7月3日木曜日

週1回 その19

 結構手直ししている。地道な作業だ。

 このPRPにも直接携わった Kernberg (1999)は後に分析的な治療を「精神分析的な様式の治療 psychoanalytic modalities of treatment 」と一括りにして、その中を「精神分析」、「精神分析的精神療法」、「精神分析を基盤とした支持的精神療法 psychoanalitically based supportive psychotherapy」 に分類した。そして精神分析的精神療法は通常は最低週2回のセッションが必要であるとし、そうすることで転移の発展と患者の日常の現実の変化の両方を探ることができると明言する(p.1081)。この主張は、週2回以上を精神分析的ととらえた前出の藤山氏の主張と共通している。また Kernberg はそれ以下の週一回の支持療法では、転移に専念するのではなく、患者の現実の世界における進展を扱うことに費やすべきであるとする。

  なおこのKernberg の考えを反映する形で提唱されたのがTFP(転移に焦点づけたセラピー transference focused psychotherapy (Clarkin, 2007) である。このTFPはBPDの治療を目的として始まったが、他の障害を持つ患者についてもその対象を広げている。TFPはその名の通り患者と治療者の転移関係における明確化、直面化、解釈が治療の主流となる(Gabbard, 448)。しかも治療早期から、転移の中でも特に陰性転移が扱われるとのことであるが、治療頻度はやはり上記の「精神分析的精神療法」と同様に週2回となっている。

以上のKernberg らの立場は、転移を積極的に扱う手法は週2回でも可能であるとみなす具体例と言えよう。ただし精神療法と精神分析との関係についての頻度という観点から論述する他の文献は少なく、Kernberg の「転移解釈は週2回以上」という見方が一般の分析的な臨床家たちのコンセンサスを得ているかは明言できないことになる。

 現在において精神分析と精神療法との関係性、および頻度の問題についてより包括的な立場を提示しているものとして、Glen Gabbard のテクストが挙げられよう。Gabbard の「精神力動的精神療法」(狩野力八郎 監訳、岩崎学術出版社、2012年)は米国における精神医学の基本テキストとして用いられ、邦訳を通して私たちにも馴染み深い。Gabbard は上述の表出的、支持的という分類に関して「治療者の介入の表出的―支持的連続体」(以下、「連続体」)を提示する。これは表出的な極に近いものから順番に、「解釈」、「オブザベーション」、「直面化」、・・・・として「心理教育」、「助言と称賛」と進んで支持的な極に至るというものである。そしてどちらの極により近いかにより、精神療法を表出的精神療法と支持的精神療法として分類する。
 この連続体に基づく「表出的か支持的か」という分類について、Gabbard は「より表出的に計画されている治療」については2,3回、支持的では週一回あるいはそれ以下であるとしている。しかし「週一回未満の低頻度」では「転移に焦点を当てることは難しくなる」と述べる。
 このGabbard の分類によると、週一回は支持的精神療法に分類され、そこでの介入も「連続体」の上では解釈などの表出的なものよりはむしろ心理教育、助言などの支持的なものが主体となる。ただしこの後者も「連続体」の理解に則ったものという意味では精神分析的な介入ということが出来よう。
 ところで注意を要するのは、Gabbard は表出的な介入としての解釈を分析的な治療にとって第一義的ないしは特権的なものとは必ずしも見なしていないということである。彼は「転移は治療の妨げになる時には解釈する必要がある」(p.79)という理解のもとに、それに至るまでの防衛の解釈により重きが置かれるべきであるという考えが示されている。さらに「分析家や分析的治療者は・・・転移の作業をしばしば美化しがちである」(p80)とし、力動的精神療法で治療者が行うことの大部分は非解釈的である」(p81)とする。これは Gabbard が提唱する多元的なアプローチの文脈からはより理解可能な姿勢と言えるだろう。