2025年5月2日金曜日

精神力動的な立場からのパニック・不安の理解 1

はじめに

 本稿は精神力動的な立場からパニック・恐怖と不安の理解と対応について論じる。なお本号では並行して寄稿される認知行動療法、森田療法、ポリヴェーガルの立場との違いを明らかにすることも求められている。

 まず最初にこの論考のタイトルを「精神力動的 な立場から」とした理由について述べたい。いわゆる精神力動学 psychodynamics は「生物学的心理的社会的」という包括的な概念である。それはフロイトの精神分析理論に代表される葛藤モデルには留まらず、いわゆる欠損モデルないしはトラウマモデルをも含みこむ。そして私たちの精神活動は無意識的な脳の活動を反映し、それは遺伝子の表現であるとともに環境や社会による影響をこうむっていると考える。(Gabbard p.4)本稿のテーマであるパニックや不安はまさにそのような包括的な立場からとらえるべきであると考える。


フロイトの不安の概念

 フロイトは不安について極めて詳細に論じたことが知られるが、それは主としてリビドー論に基づくものであった。すなわち私たちの持つ性的ないしは攻撃的な本能が精神の働きの根源にあり、それが心の上位の部分(超自我)からの干渉を受けることにより生じる葛藤が不安の本体であると考えた。その意味では不安は無意識的な葛藤の存在を知らせる好ましい兆候とみなされていたのである。(Sarwer-Foner, 1983)  フロイトはまた不安を発達論的に分類し、超自我不安、去勢不安、愛を失う恐怖、分離不安、迫害不安、解体不安などを見出した。これらの不安は臨床上しばしばみられるが、多くの場合はこれらの幾つかが複合した形をとると考えられる。(Gabbard, Nemiah,1985) 



(以下略)