2025年1月22日水曜日

統合論と「解離能」 12

ワトキンス夫妻が少なくとも統合を目指さなかったことについては、実際の論文におけるその旨の記載が明らかにしている。

アメリカ時代にせっせとコピーしてきた論文を掘り出すと、夫妻の1984年の論文が見つかった。(Watkins,J, Watkins H.(1984)  Hazards to the Therapist in the treatment of Multiple Personalities. Psychiatric Clinics of North America Vol, 7,No1. March 1984.) そこには以下の様な記載がみられる。

多重人格においてもequilibrium が成立しているのであり、「そのような分裂 split を『統合』しようとすることは、アラブ諸国とイスラエルを凝集した cohesive 中東国にするように誘いかけるようなものだ」(p.112)という。「人格の間の違いが大きければ、さらに強固な解離が必要となるのである。」そして解離は内的な葛藤を抑えようという試みであることを強調する。このことは解離が持つ防衛的な側面を考えれば十分納得がいく話である。

しかし、である。同じ自我状態療法の流れをくむサンドラポールセン

はと言えば、かなり明確な統合派なのである。

サンドラ・ポールセン著、新井陽子・岡田太陽監修、黒川由美訳(2012)「トラウマと解離症状の治療 EMDRを活用した新しい自我状態療法」 東京書籍. 


彼女の業績は、自我状態療法にEMDRを組み合わせ、DID の安全な治療を可能にした技法(杉山)ということになっている。