2024年9月2日月曜日

Gartner 先生の講演

 このブログは数日前のものが反映されているが、昨日(8月24日)はパシフィコ横浜で開かれている心理臨床学会の男性の性被害に関するシンポジウムが行われた。私は討論者として参加したのであるが、たくさん得るものがある一方では、少しもやもや感が残る内容であった。
 男性の性被害の問題はこれから多くのことが明らかにされるべきことであり、その分野を切り開いたガートナー先生の功績は多大なものである。しかし実際の臨床で出会う被害者の大半は女性であることも確かである。
 数日間ブログで示した通り、私が実際に関心を持ち、また困っているのは、男性の性加害性を女性の被害者にいかに伝えるかという問題である。それをガートナー先生にぶつけてみたのである。しかしこれについて先生の答えは、以下のようなものであった。

「性加害という問題から離れて、虐待者が被虐待者に対して虐待を働く際の力動について説明してはどうか?」
 なるほどと思った。そして彼は言った。
「虐待者が実は弱い存在であり、それを反転克服するために行うのが虐待である、という風に。」この方針は有効である一方で、被虐待者にこう言われてしまう可能性もあるだろう。「それは虐待者の言い訳に過ぎない。被害者である自分たちにとっては何の慰めや謝罪にもならない。」つまりこの説明である程度納得がいく場合もあれば、とてもいかないということもあるであろう。
 講演が終わり、同じ討論者の西岡さんたちとその後の食事に向かう際にガートナー先生にもう少し直接疑問をぶつけてみた。「先生は男性の性加害の問題についてどう思われますか?」
 それに対する先生の答えは意外なものだった。

「私は男性の性被害者について専門に扱ってきました。しかし男性の性加害者の専門ではありません」。エー、だって男性である私たちはある意味では当事者ではないのですか、と言いかけて私はそれ以上は言わなかった。これほどまでに、男性の専門家に、男性の性加害性について意識を向けることは難しいのだ、と理解した経験であった。

 ともあれ企画者の吉川真理先生、辻河昌登先生にこのような機会を与えていただいて、深く感謝する。