2024年9月16日月曜日

記憶の抑制に意味があるのか 最終回

 9月7日は日本心理学会88回大会にオンラインで出席し、100人ほどの参加者があったそうである。(実際は対面方式で、オンライン参加は私だけであった。)

実際に発表を聞いて新たに学んだことは、少なくとも心理の基礎研究でも臨床に役立つような研究が行われ、それを私達臨床家が積極的に学ぶ必要があるということである。事実「記憶の抑制のよしあし」についての臨床家との対話という試みはこれまでも行われて、その成果が発表されているということを私は知らなかった。「杉山崇、越智啓太,丹藤克也(2015) 記憶心理学と臨床心理学のコラボレーション 北大路書房」などはすでに9年前に出版されているのだ。今回の討論の前に取り寄せて読むべきであった。
 しかし私に対する討論への討論(つまりお返事)の形で発表者から教えていただいたのは、実際にPTSDの記憶についての研究もおこなわれており、そこではトラウマ記憶の抑制はある程度可能であるが、リバウンドが大きい、という幾つかの研究結果が出ているとのことである。予想していたとはいえ私の知らないことだった。また先生方の話の中に解離という単語は一度も出て来ず、やはり抑制、抑圧に比べて解離と記憶に関する基礎研究はまだまだこれからであるということを実感した。

結局つらい記憶の抑制の問題は、それがいい事か、悪い事かの判断は一概にできないものの、人が意図的にあることを忘れようとする試みには一定の効果があるということを知ったことの意味は大きい。(ひとは考えまいとすれば余計考えてしまうといういわゆる「逆説的効果」は神話であるという研究結果もあるのである。(何しろ忘れようとするときには海馬がオフになって協力してくれるのだから。)認知行動療法的な試みに対して今一つ理解と許容性が深まったという自覚がある。