2024年9月17日火曜日

統合論と「解離能」 11

 USPTの勉強途中であるが、ここでいわゆる自我状態療法に目を向けてみよう。というのもUSPTでの試みは自我状態療法のそれとどこか似ている印象があるからだ。そこでこちらに寄り道。しかしこれについてもまともに調べようとすると大変なので、ここは杉山登志郎先生の論文を参考にしよう。

杉山 登志郎(2018)自我状態療法―多重人格のための精神療法. 日本衛生学雑誌 ミニ特集 こころとペルソナの発達に関するアプローチ 73巻1号 62ー66

とてもコンパクトで読みやすく、しかも杉山先生の治療論のエッセンスがここに書かれているという印象を受ける。杉山先生は私が最も尊敬するトラウマ論者の一人である。
 この論文には杉山先生がこの治療法について受講し、実際に臨床に応用した際の体験が書かれている。先生はもともとEMDRの研修を受けて実際に臨床で用いた際に「その効果に驚嘆した」とある。しかしDIDの治療の際にその限界を感じ、EMDRのワークショップで自我状態療法を学んで、「再度驚嘆した」とある。杉山先生には惚れっぽい(いい意味で、である)ところがあり、そこがかの van der Kolk 先生と似ているのだ。米国で初めてのSSRI(Prozac 、日本には入って来ていない)をPTSDに用いて著効を見て痛く感動したという彼の文章を思い出す。
ではそもそも自我状態 ego state とは何か。杉山先生の文章を引用する。「環境に適応するための行動パターンとそのもとの経験とが連結したものを自我状態と呼ぶのである。(p.63)」何となく Putnam 先生の discrete behavioral states (DBS) を彷彿とさせる。
ちなみに自我状態療法 Ego state therapy の歴史は案外古い。Watkins, H. H. (1993). Ego-State Therapy: An Overview. American Journal of Clinical Hypnosis, 35(4), 232–240.という論文に、既に20年の経験について書かれている。ということは1970年代から始まったということか。この論文の抄録には以下のように書かれている。

Ego-state therapy is a psychodynamic approach in which techniques of group and family therapy are employed to resolve conflicts between the various “ego states” that constitute a “family of self” within a single individual. Although covert ego states do not normally become overt except in true multiple personality, they are hypnotically activated and made accessible for contact and communication with the therapist. Any of the behavioral, cognitive, analytic, or humanistic techniques may then be employed in a kind of internal diplomacy. Some 20 years experience with this approach has demonstrated that complex psychodynamic problems can often be resolved in a relatively short time compared to more traditional analytic therapies. 
つまり精神分析の向こうを張ったところがあり、それを力動的なアプローチとし、そこではグループおよび家族療法のテクニックが用いられるとする。ここでは隠された自我状態は多重人格でない限り表に出ないが、催眠ではその活動が見られる、とある。ただここでグループ療法や家族療法のアプローチを応用する、という限り、全部を統合しようとする試みは恐らくなされないであろう。事実杉山先生の記載を見ても「『平和共存、みんな大切な仲間』というメッセージが一番大事なキーワードとなる。(p.64)」とある。