2024年9月11日水曜日

統合論と「解離能」9 

 本書の第4章「人格解離機制ー典型的DIDと内在性解離―」はUSPTの創始者である小栗康平先生による章で、先生の考えるDIDのメカニズムが簡潔に書かれている。それによるとUSPTを用いた解離性障害の治療とは、「『統合』に向けて『融合』を何度も繰り返していき、最終的に基本人格を呼び出して実年齢まで成長させて、主人格と統合する」(p.21)ということである。ここで基本人格とは「生まれて来た時(胎生期も含む)の本当の自分」と定義されている。ということはこれはかなり野心的な治療目標とも言えるであろう。なぜなら私達が出会うDIDの方々の中には基本人格さん自身が見当たらない(深く眠っている)というケースがかなり見受けられるからだ。

また以下の文章も注目に値する。「幼少時に(生まれる前、胎生期のトラウマが原因であるという患者さんが約半数いる)強いストレスを回避する目的で、基本人格が別人格を生み出してそれに対処すると、以後ストレスに直面するたびに別人格を生み出して対処するようになります」(p.21∼22、下線岡野)。つまりトラウマは前生におけるものをかなりの割合で含むというやや特殊な立場である。
さらに著者によれば、最初は解離性健忘を伴う典型的なDIDにだけUSPTを試みていたが、解離性健忘はないものの表面上は鬱症状や感情不安定さなどを呈する人にこれを試みたところ、「予想外に非常に多数の患者さんから、内在する人格が表出して来ることを経験した」(p.24)とある。