9月7日に開催された日本心理学会公募シンポジウムにおいて発表した討論内容は結局以下のようになった。 発表者の発表の趣旨に応じて討論者としては以下のいくつかの点について論じたいと思う。 先ず大前提として、臨床では記憶や思考の抑制を不適応なものと考えているのか?一般に考えられている精神分析的な精神療法ならそのような前提を持っていたかもしれない。すくなくともフロイトの精神分析理論ではそうであったと言えるであろう。また今でも感情を抑えずに表現する、あるいはトラウマ記憶を想起し、それに直面することを促す暴露療法的な手法は存在する。D.Fosha のAEDP (Accelerated Experiential Dynamic Psychotherapy加速化体験力動療法) の試みもあるくらいだ。 本来フロイトは感情を抑圧することが神経症につながるという考え方を持っていた。フロイトにおいてはリビドーがうっ滞し、蓄積されることが害悪であるという根強い考えがあった。あるトラウマ的な出来事に関する感情が閉じ込められている場合、それを表現することで症状がおさまるというのがいわゆる除反応 abreaction による効果である。フロイトは先輩医師ブロイアーと共に、これがあらゆるヒステリーの患者にとって有効であると考えた。しかし実際にはトラウマに直面することが再外傷体験を生んだり、症状を悪化させたりすることもある。 現在の精神医学は以前に比べて「トラウマ論より」であると言える。そしてむしろ臨床上一番問題になるのは、いわゆるフラッシュバック現象であり、要するに自分ではコントロールできないような侵入的な考えであり回想である。思考や記憶は、それが侵入的である限りにおいて、病的なのである。 それは例えばある日夢の中で昔の光景が突然現れる、とか日中の覚醒時にあるイメージが突然降ってくるという形を取る。もちろんテレビである映像を見たとたんに昔の記憶がよみがえるということもある。これらは一般にフラッシュバック(FB)と言われるが、これをいかにコントロールするか、あるいは突然襲ってくる記憶をどう処理するかというのが最大の問題になる。だから思考や記憶をいかに抑制するかという問題はむしろ喫緊の問題と言える。数多くの患者がFBや解離性の幻聴に苛まれている。だからこのテーマは極めて重要なのだ。 そして現代の治療者は過去の記憶内容を扱うことが改善につながるのであれば、行い、再外傷体験に繋がるのであればそれを行なわないという比較的単純な結論に至っている。 つまり外傷的な記憶の想起は是々非々で行なうべきであり、除反応か、再外傷体験のどちらかにつながる可能性を常に注意すべきである、ということである。 さて各先生のご発表に簡単に討論を行います。