2024年6月14日金曜日

「トラウマ本」トラウマと心身相関 加筆部分 5

 本来転換性という用語はFreudの唱えたドイツ語の「転換 Konversion」(英語のconversion)に由来する。 Freudは鬱積したリビドーが身体の方に移されることで身体症状が生まれるという意味で、この転換という言葉を使った。

 ちなみにFreudが実際に用いたのは以下の表現である。「患者は、相容れない強力な表象を弱体化し、消し去るため、そこに「付着している興奮量全体すなわち情動をそこから奪い取る」(GW1: 63)。そしてその表象から切り離された興奮量は別の利用へと回されるが、そこで興奮量の身体的なものへの「転換(Konversion)」が生 じると、ヒステリー症状が生まれるのである。
 さらにFreudは言った。「ヒステリーが、和解しない表象を無害なものにすることは、興奮全量を身体的なものに置き換えた結果としてできる(防衛―神経精神病、1894)」
 しかし問題はこの転換という機序自体が証明されているわけではなく、転換性障害に心理的な要因 psychological factors は存在しない場合もあることである。心的葛藤が身体症状に転換されるというFreudの説明は仮説の一つに過ぎないのだとStone は主張する。
Jon Stone (2010)Issues for DSM-5:Conversion Disorder  Am J Psychiatry 167:626-627.

 このようにFreudの転換の概念を見直すことは、心因ということを考えることについての反省をも意味する。そしてそのような理由でDSM-5においては転換性障害の診断には心因のあるなしを問うていない。これはこの障害の概念そのものの大幅な変更ということになるのだ。  転換性障害の最新のDSMやICDに従った分類を参照すると、それがあまりに網羅的である事に驚く。つまりそれらは視覚症状を伴うもの、聴覚症状を伴うもの、眩暈を伴うもの、その他の特定の感覚障害を伴うもの、非癲癇性痙攣を伴うもの、発話症状を伴うもの、麻痺または筋力低下を伴うもの、歩行障害の症状を伴うもの、運動障害の症状を伴うもの、認知症状を伴うもの ・・・・・・ と数限りない。つまり身体機能に関するあらゆる症状がそこに含まれることになる。これが予断を多く含んだ転換性障害の概念が消えた事と引き換えに生じたことになるのだ。