2024年5月10日金曜日

CPTSDと解離 1

 CPTSDと解離の関係性について、しばらく論じる。ちなみに以下の論文(ネットで誰でも入手可能)を下敷きにして考える。

Hyland P, Hamer R, Fox R, Vallières F, Karatzias T, Shevlin M, Cloitre M. Is Dissociation a Fundamental Component of ICD-11 Complex Posttraumatic Stress Disorder? J Trauma Dissociation. 2024 Jan-Feb;25(1):45-61. 

CPTSDの概念と解離との関連性については、英文の論文はかなり多く発表されているのだ。その理由の一つは、もともとCPTSDといえば解離を扱うもの、という了解があったからだ。ところがICD-11のCPTSDには表立って解離のことがうたわれていない。どうしてなのだろうか、という疑問が多くの識者から寄せられているらしいのだ。どうやらICD-11で謳われているCPTSDにおいては、そこでは解離は主たる症状としては掲載されていないのだ。

 そこで最も端的に問われなくてはならないのが、CPTSDは解離とは独立して存在するのか、ということである。別の言い方をするなら、幼少時のトラウマは解離を前提としているのか、ということだ。これはかなり興味深い議論である。

  ちなみに私の基本的な考えは、解離が構成概念 psychological construct であるということだ。つまり直接観察できない。たとえば「おもいやり」という構成概念を考えよう。これは直接図ることが出来ず、それを表すような行動により観察できる。解離はそれ自身が実に様々な現れ方をするが、それ自体の度合いを計測することが出来ない。たとえばPTSDであれば、再体験(FB)、感覚過敏、鈍麻ないしは回避症状を主症状とする。どれも解離の表れと見なすことが出来、その意味では構成概念ではなくそれが表現されたものである。遺伝学で言うと、表現型 phenotype のようなものだ。だからそもそも違う種類のものを一緒に出来ない。PTSD思考の臨床家や研究者は具体的で表に表され、計測できるようなものを診断基準として掲げたいから、構成概念である解離という概念はあまり使いたくないのだろう。