2024年5月11日土曜日

CPTSDと解離 2

 

さてこのHyland らの論文に戻ろう。このICD-11の掲げたCPTSDの一つの問題は、以前のCPTSDの概念は、そこに解離症状を中核的なものとして含んでいたということである。Herman のオリジナルのCPTSDと如何に違うかは次のことを思い出せばよい。Hermanは彼女の「心的外傷と回復」の中でCPTSDを昔のヒステリーの現代版だと考えている。そしてそれは端的に解離性同一性障害(DID)、身体化障害(SD)そしてBPDを含むとした。
 分かりやすく示そう。
Herman のCPTSD=幼少時の虐待に基づくヒステリー=DID+SD+BPD 
つまりHermanにとっては、解離は最初からCPTSDに組み込まれていたのだ。

ところがICD-11により定義されたCPTSDはどうだろう?CPTSDの6つの症状群を復習するならば、「今、ここでの再体験intrusion」、「トラウマを思い起こさせることの回避avoidance」、「現在の恐れsense of threat」という三つと、「感情制御困難」「否定的自己概念」「対人関係障害」 の三つである。そして前者がPTSD部分、後者がCPTSDに特有の自己組織の異常を表す。(例の公式を思い出そう。PTSD=Re+Av+Th  DSO=AD+NSC+DR)そしてそしてこの中に解離は入ってこない。

すると当然起きるべき疑問は、解離を伴わないCPTSDなど現実にあるのだろうか。ということである。

ちなみにあるメタ分析では、小児期の虐待やネグレクトを受けた子供の最も共通した症状は解離症状であるという研究がある。Dalenberg and Carlson (2012)の論文がとてもインパクトがあったという。この論文はトラウマとPTSDの仲介役mediator として解離症状が最も関係しているというものだった。そしてここが重要なのだが、DSMとICDに、PTSDに解離タイプを位置づけるようにと言う提案があり、DSM-5はそれを飲む形となったのだ。(ちなみにICD-11のPTSDには解離タイプは記載されていないが、そのかわりPTSDには不快気分、解離症状、身体的訴え、自殺念慮や行動、社会からの引きこもり、アルコール依存等々が伴うことが多い、というただし書きがある。)その結果として、PTSDの5分の一に解離タイプが見られるということである。