相互ディープラーニングの議論を終えるにあたり、この種の議論が精神療法にとっても一つの流れとなっているという点を強調したい。イギリスの心理学者ジェローム・ホームズ(Holmes, 2019)はいわゆる「愛着に基づく心理療法 attachment-based psychotherapy」を提唱していることで知られている。
もともとボウルビィの愛着理論から出発したホームズは、いわゆる関係性神経科学 relational neuroscience を提唱し、愛着形成期の母子関係においては、常に生理学的、情動的な応答が行われている。そして心拍のパターン、視床下部—下垂体—副腎系の活動、オキシトシンの血中濃度などが鏡像関係にあり、互いに影響を及ぼし合っている。つまり生理学・行動学的な同期化 synchrony が生じているのだ。そしてそれは治療者患者関係にも言える。
Holmes J, Slade A.(2019) The neuroscience of attachment: implications for psychological therapies. Br J Psychiatry. 214(6):318-319.
手っ取り早く言えば、精神療法においてもこのような行動学的な同期化が成立することが、良好な治療関係を占うということになる。最近の研究では、メンタライジングにより前頭前野-扁桃核の連関がより密になるという。