2024年3月23日土曜日

Jeremy Holmes の本 1

  ある事情があり、ジェレミーホームズ Jeremy Holmes という大家の「脳は独自の心を持っている The Brain has a mind of its own」という本を読んでいるが、これは大変な本なのである。しかも副題が「愛着、神経生物学、そして精神療法の新しい科学Attachment, Neurobiology, and the New Science of Psychotherapy」となって、要するに精神療法と神経科学を愛着を媒介として結ぶという企画なのだが、これだけでもスケールの大きさが分かるだろう。そしてその割にこの本は読みやいサイズで、原書はかなり大きな文字で索引を入れても200頁くらいしかないのだ。

 そしてこの本は一読して、フロイトの幻の著作とも言われる1895年の「科学的心理学草稿」に沿ったものだということが分かる。この一世紀前に試みられ、その後忘れ去られていたかのような理論を、最近 Kalr Friston の自由エネルギーの理論に被せて再興しているのだ。この本を評してPeter Fonagy 先生も「自由エネルギーの論客として、数学的な直観が他者との交流を説明する様を見るのは、目から鱗であり、真の喜びである。本書はこの分野に起きる今世紀の最も貴重な貢献の一つである。」と言わしめている。またGwen Adshead によれば「もしフロイトが生きていたなら、ぜひこの本を読むように」と強く薦めるであろうとも書いている。
 ちなみに著者ホームズ先生は35年にわたって王室ロンドン大学の精神医学及び医学的精神療法の顧問であったと紹介されている。
 さっそくユーチューブにあげられたホームズ自身による短い解説を見ると、こんなことを言っている。今求められているのは、「関係神経科学 relational neuroscience」とも言えるものであり、 そこでは精神分析と愛着と神経科学の統合が行われる。そして精神療法はトラウマを受けた人が、いわば治療者の脳を借りて、それを理解され創造的に発展させることが出来るようにするのだ。またこれまで一人の人間について考えられていた神経科学を、対人的なそれとして理解することであると主張する。何と壮大な試みであろう。

実は私はフロイトの自由なエネルギーと拘束されたエネルギーの理論(「科学的心理学草稿」の主要テーマである)と、最近話題となっているフリストンの自由エネルギーの理論の関係がよく分からないでいた。しかしこれらの関係を教えてくれるのがこの本なのである。