2024年3月28日木曜日

Jeremy Holmes の本 6

 第2章「精神分析との反響点」はもちろん興味があるテーマだ。話の流れとしては大体追うことが出来る。人は常にPEM(予測誤差最小化)をしている生き物として捉えるのが、フリストンの理論の理解には必要だが、治療もそれに関連している。PEMを促進させるのが幼児期における母親のメンタライゼーションの機能であり、患者が幼少時にこの能力を十分に育てることが出来なかった場合に、それが治療状況においても再現され、扱われることになるだろう。  ここで「借り出された脳モデルBorrowed brain model」 というのが興味深い。すこし調べてみると、Holmes 先生はなんと「AIP(愛着に基づいた精神療法 attachment informed psychotyerapy)」なるものを提唱していることを知った!! この治療では治療者が自分の脳を提供する形で、患者との同期化を図るという事まで言っている。 Holmes 先生のこのような試みは、いわゆる「生物行動学的同期性の研究 biobehavioral synchrony」の研究にも関連している。この研究では例えば男女のカップルの生理学的な指標(皮膚の電気活動など)が同期している場合に、カップルは旨くいくというのだ。それを言わば治療でも行うというのがこの「借り出された脳モデル」という事だが、これはかなり最先端の考えを示しているといっていいだろう。アラン・ショアが母子の右脳どうしの脳波の同期化について言っているが、それとも関連している。しかもそれを自由エネルギー原理の観点から述べている。つまりAIPはこのPEMの話と結びついているのだ。  結局こういう事ではないか?Holmes 先生はこの愛着の問題を考えているうちにフリストンの自由エネルギー原理に出会い、合流したという順番ではなかっただろうか?