2024年1月24日水曜日

連載エッセイ 12の9

 2.ニューラルネットワークとは?

 この章の内容は、文系出身でもっぱら臨床をなさっている心理士さん達にはかなりとっつきにくかったかもしれない。たとえばA国について知りたかったのに、いきなりA国の細かい地図を広げられて「要するにA国とはこれに尽きます!」と言われた感じではないだろうか? もちろんその地図の詳細にズームインしていくと、そこの町や村の様子が見えてきて、もっと拡大すると人の動いている姿が映されるかもしれない。いわゆる「地図オタ」の方なら細かな地図を眺めて様々な空想を膨らませ、何時間でも眺めているかもしれない。それは実は脳科学を少しばかりかじった私自身にとっても同じなのだ。  私が注目して欲しいのは文中に示したケンブリッジ大学の神経科学者であるスリバス・チェヌの研究に現れる図である。

グラフ が含まれている画像

自動的に生成された説明

この図は視覚的にある事実を訴えている。意識がボーっとしている時、脳の形成するニューラルネットワークはその一部がポヨポヨと活動しているに過ぎない。何かうわ言のようなことをつぶやいているだけかもしれないし、ほとんど眠っただけかもしれない。人は昏睡状態でも脳派活動は見られるため、ある種のネットワークの活動は起きているはずである。しかし心が十分に機能しているとは、この真ん中の図のように、それが全体的に活性化され、しかもそれがてんかん発作で見られるであろうように過剰な活動であってはならない。私達が患者さんの心に目差すのは最終的にはこのようなグローバルで全体に行き届いた活動である。このような活動はいわゆるデフォルトモードネットワークに近いが、そこではある思考がその他の思考や記憶の間に比較的容易に連絡を取ることができる。それはネットワーク全体が「温まって」いるからである。

精神分析でいう自由連想は、恐らくこのようなネットワークの広がりの中で心を遊ばせることであろうと考える。そこで「~をしてはならない」「∼は恥ずかしいから言えない」というような制限がなるべく加えられないような状態である。そしてもっと言えば、患者のネットワークと治療者のネットワークは繋がっていてしかるべきなのである。それを思い起こさせるような図もここにもう一度示したい。