ところでこのシェルショックの概念の背景にある「衝撃波」説は、最近(2015年)になりその信憑性を再発見する研究がなされている(1)。イラクやアフガン戦争でいわゆる IED( Improvised Explosive Device, 即席爆発装置)にさらされた兵士の脳の神経線維を調べると、微細なハチの巣状のパターンがみられ、それが彼らの神経学的な症状を引き起こしていた可能性があるという事だ。つまり彼らの脳は交通事故や薬物依存などにより直接に与えられた脳のダメージとは異なる、空中を伝わる衝撃波により、さらに微細で肉眼ではわからないような病変を呈していたわけだ。そしてそれは最新の顕微鏡によりようやく明らかになったわけである。
このように一度葬り去られた理論が生き返るのが科学の醍醐味である。「シェルショック」は一転して時代を大きく先取りした仮説であったと言えるかもしれない。
(1)“Combat Veterans' Brains Reveal Hidden Damage from IED Blasts” (Johns Hopkins Medicine, January 14, 2015)