このところこのエッセイが遅々として進んでいない…・
Lanius らの研究(Lanius, R. A., Vermetten, E., Loewenstein, R. J., Brand, B., Schmahl, C., Bremner, J. D.,& Spiegel,D. (2010). Emotion modulation in PTSD:Clinical and neurobiological evidence for a dissociative subtype. The American Journal of Psychiatry, 167(6), 640–647.
)は早くからPTSDの患者の示す解離症状の解明に積極的であった。その説においては、前頭皮質や前帯状皮質(ACC)は辺縁系を過剰に抑制し、侵入的な再体験の場合は、前頭葉の抑制が働かず、辺縁系の過活動が起きるという説だ。
そこでこの問題についてかなり大掛かりな研究を行ったのが、Sierk A, の研究である。しかし予想に反してこの研究では、実は前頭―辺縁系の連結性connectivity はあまり差が出なかった。という事はこの連結性は器質的なものではなく、機能的なものという事だ。それとこの研究ではPTSD-Dの場合、トラウマに焦点付けられた治療の前に、情動調節のための方略が必要であるという事である。
一方扁桃核に着目した最近の研究では、情緒を司る扁桃核と前頭前皮質の関係性がPTSD-Dでは非常に強くなっているという説が支配的だ(Nicholson AA, Densmore M, Frewen PA, Théberge J, Neufeld RW, McKinnon MC, Lanius RA. The Dissociative Subtype of Posttraumatic Stress Disorder: Unique Resting-State Functional Connectivity of Basolateral and Centromedial Amygdala Complexes. Neuropsychopharmacology. 2015 Sep;40(10):2317-26.)。これは前頭葉が一生懸命扁桃核を抑えて、その結果離人疎隔体験が起きているという意味である。
結局両者は「扁桃核の抑制=解離症状」というテーゼを示していることになる。