2023年11月2日木曜日

脳科学と小児臨床 5

 アランショアの理論について触れる前に、現代の精神医学の大きな潮流についてお話したいと思う。それは現在のネット社会では様々な情報が瞬時に行きわたり、またそれらの情報の間の結びつきやそれらの融合もそれだけ頻繁に行われているという事である。そして乳幼児精神医学は脳科学やトラウマ理論、愛着理論、解離理論等が融合される傾向にあるという事である。
 アランショアはUCLAの精神科で活躍する心理学博士(80歳)。精神分析、愛着理論、脳科学を統合する学術研究を発表している。特に「愛着トラウマ」の概念が知られている。欧米には関連領域について縦横無尽に研究をし、論文を発表する怪物のような人がいるが、アランショアもその様な人という印象を私は持つ。
以下がわが国で邦訳された二冊の本と原書である。
Right Brain Psychotherapoy Norton Professional Books. 2019.(小林隆児訳(2022)右脳精神療法. 岩崎学術出版社.)
The Development of the Unconscious Mind. Norton Professional Books.2019.(筒井亮太、細澤仁訳(2023) 無意識の発達.日本評論社.


 ショアの右脳理論についてそのエッセンスを示すと以下のようになるだろう。そしてここで彼が右脳を強調していることが、彼の理論のユニークな点なのである。なぜこれほど右脳について強調するのかを知ることで、彼が本当に伝えたいことを知ることが出来るであろう。
  • 乳児期は右脳の機能(愛着、間主観性、社会性)が優位で、愛着を通して母親と子供の右脳の同調が生じる。
  • 母親は眼差しや声のトーンや身体接触を通して乳幼児と様々な情報を交換している。
  • 母親との愛着は乳児の情動や自律神経の調節に寄与する。
 ショアは、近年脳の側性 laterality の研究が進み、右脳の発達が左脳に先行するという事実が明らかになったという。そして右脳の急成長は妊娠の第7~9ヶ月で開始され、左脳の急成長の開始の時期(生後二年目の中期~後期)に終わりを迎える。以下はそれをさらに詳細に示したものである。
  • 生後2∼3ヶ月  右扁桃体基底外側部(間主観的機             能)が発達の臨界期を迎える。
  • 生後3∼9ヶ月  右前帯状皮質(社会的合図への反              応性に関与する)が稼働する。
  • 生後10∼12ヶ月 右眼窩前頭皮質(愛着実行制御シ              ステム)が成長する。