2023年11月3日金曜日

脳科学と小児臨床 6

 このように考えると、いわゆる愛着の時期において乳児の世界で生じていることを、もう少し具体的に考えることが出来る。それはあくまでも右脳を中心とした出来事であり、そのことを知っておくことは子供のケアの際にある種のアドバンテージを与えることになる。少なくとも母親は乳児と関わっていて、それが乳児の脳のレベルにどのような影響を与えているかを知ることが出来るのだ。
 例えば「乳児の特に左体側の触覚の情動への影響が直接的である(赤ちゃんは左側で抱っこすべし。)」という事が言える。乳児の体の左側(頭蓋神経の支配領域としては右側)が赤ん坊の右脳に入力される。という事は乳児の左側の皮膚が刺激を受けるようなかかわり方はより直接的であるという事になるという。
 更には乳児は女性の顔を目にすることで右半球を活性化させる働きがあるという。これが男性ではないという事が何を意味するかは分からないが、母親が乳児に対面し、アイコンタクトをすることは、乳児の右脳を直接的に刺激し、その神経の発達に寄与するという事になる。そしてさらに重要なのは、乳児は養育者を介して、情動的な心地よさが持続するような「情動脳」すなわち右脳を構築する必要があり、それにより情動的な自己が形成されるということである。
 特にこの最後の点は、いわゆる「抱き癖」の考え方との関連で重要である。昔「スポック博士の育児書」というのがアメリカっではやったが、そこで言われたことは、赤ん坊の自立心を育てる上でも、泣いてもすぐに抱っこをしてはダメである、という考え方が主流になっていた時期がある。しかし泣くからこそ抱っこをしなくてはならない、というのが現代流の考え方だ。情動脳は、それが出来るだけ安定した心地よさを維持してもらえることが大事である。つまり泣くという情動的に不安定な状態は抱っこにより安定してもらい、そのことにより心地よさが回復され、維持されることで正常な右脳が育っていくという考え方である。