2023年11月1日水曜日

脳科学と小児臨床 4

 ところでこのウィニコットの考えは、その後分析家ピーター・フォナギーなどに引き継がれている。今回の学会のメインテーマは「愛着とメンタライゼーション」となっているが、フォナギーこそが精神分析と脳科学を融合した人物(のひとり)だったわけである。そして彼はウィニコットが言った情動のミラリングの障害をより詳細なプロセスで論じている。彼は母親の情動のミラーリングの障害を分類した。

(1)子供の陰性情動に圧倒された母親がそれを消化せずにそのまま表情に表す場合・・・乳児はそれを母親から切り離して自分のものとすることが出来ず、他者に属するものとみなす。こうして情動の調節は行われずにトラウマが生じる。 

(2)母親が乳児の情動を(例えば陽性情動を攻撃性と)読み違えると、乳児はそれを取り入れて「偽りの自己イメージ」(よそ者的自己) を作り上げる。

この(1)がウィニコットのいった「その様な場合赤ん坊は母親の顔に自分自身を見ることが出来ないのだ。」に相当すると考えられる。

ところでこれは大事な余談であるが、アメリカの心理学者ルネ・スピッツ(1887-1974)も、戦争で孤児になった乳児55人に対し、スキンシップを一切行わない実験をした。結果はフリードリヒ2世の実験結果と同様で、55人中27人が2年以内に死亡。17人が成人前に死んでしまい、残った11人は生き続けましたが、その多くには知的障害や情緒障害が見られたという。しかしそれにしても何と残酷な実験だったであろうか。