2023年10月1日日曜日

心理臨床学会 自主シンポ DIDの心理療法 「交代人格の調和的共存に向けて」

 交代人格の調和的共存」に向けて

 私達が毎年行っているDIDについての自主シンポの今年のテーマは、交代人格の調和的共存という事についてです。

私は常々思っているのですが、解離性同一性障害というのは病気というよりは一つの特殊能力だと思っているのです。いくつかの人が基本的には他者通しで共存する、そして人生のそれぞれの部分を担当するという特殊能力なのです。ただしその際に交代人格の間でいろいろな問題が生じる可能性があります。それを説明する上で、私はよくマイクロバスのたとえを用います。DIDはいわば一つのバスに複数の同居人が住んでいて、誰がハンドルを握り、どの方向に行くかに関しての問題がしばしば生じている状態なのです。

 このたとえでは主たるドライバーが主人格さんに相当します。そして時々運転手を交代する交代人格さんがいるわけですが、一つの問題はお互いにお互いが運転している様子を見ている場合と見ていない場合があるという事です。さらには同居人の中には、主人格の運転する方向とは逆の方に行きたがったり、そもそも子供で運転ができない人格もいます。さらにはわざと車を事故らせたりする人格さんもいたりします。それが患者さんの人生を送る上での障害となる場合があるのです。

 そこでDIDの方々に治療者としてどう関わるかという事が問題になりますが、、一昔前は、全ての人格を統合して一人にしましょう、という考え方が主流でした。しかし今では、まずそれぞれの人格さんの主張を聞いて、そして人格さんたちがお互いを知るという事のお手伝いをしましょう、という風に変わりつつあります。つまりまずは交代人格の「調和的共存」を目指しましょうという考え方に移ってきており、それが今回のサブタイトル「交代人格の調和的共存」となっているわけです。

ただし調和的共存がゴールとは言えないかも知れません。その先に統合が起きなくてはならないと考える臨床家もいます。しかしまずは共存する、その為にお互いを知り合う必要があります。それが第一ステップなわけです。そしてその為には治療者が一人一人と個別にラポールを形成する必要があるわけですが、ケースごとに特徴があり、その連絡の取り方に工夫が必要な場合もあるわけです。

私は今回交代人格の間の調和がとれない典型的なケースを4つ考えてみました。

  • 子ども人格が甘えてくる、仕事の邪魔をするパターン(子ども人格タイプ)

  • 異性の人格が服装やライフスタイルを嫌悪する。(異なる性自認のタイプ)

  • 別の同性の人格が別の恋愛対象を持つ。(異なる恋愛対象のタイプ)(ここには主人格と利害が不一致で、それを力づくで押し通そうとする人も含まれます。)

  • 黒幕人格が何かと破壊的になる。(黒幕人格タイプ)

  • (連絡が取れない人格のタイプ)