第〇〇回 日本〇〇学会 特別講演 「脳科学から見た子供の心の臨床」に向けての原稿作成である。
近年愛着において母子間の間で起きている現象を脳科学的に捉えることが出来るようになっている。特に子供の右脳の機能及び母子間の右脳同士の関りについて知ることは、その後の精神発達及びその問題についての新たな知見を与えてくれる。脳科学的な愛着理論は精神分析的な愛着理論、特にウィニコットの理論の先駆性を明らかにし、その臨床への応用を可能にする。
まず前提として述べておきたいのは、近年の愛着理論への注目は、トラウマ理論の発展・深化と結びついていたということである。
1970年代に始まったPTSDに関連したトラウマ理論は、いわば記憶の病理といえ、海馬の成熟を前提としていた。ところが近年問題になっているのは、言葉や記憶が生まれる以前の幼少期のトラウマである。その時期のトラウマは深刻であるにもかかわらず、近年までその機序が十分に論じられてこなかった。それは何よりDSMに掲げられるようなトラウマに該当しないという事があったのである。
ショアにより論じられた愛着トラウマは、言葉以前の時期において、母親との右脳を介した養育において生じたことを前提としている。その意味で乳児期の問題は重要である。しかしそれは実は分析家が先鞭を着けてきた。それがスピッツ、ボウルビイ、そしてウィニコットであった。その意味でアラン・ショアはウィニコット理論と脳科学を結びつけるようなところがあったといえるだろう。