2023年9月28日木曜日

テクニックとしての自己開示 3

  この原則2に付け加えるべきなのが次の点である。治療者の自己開示は、患者に対しての押し付けとなる可能性が非常に高いという事だ。例えば喫煙者の患者に対して自分が喫煙に関連した可能性のある内科的な疾患を経て禁煙に至った経緯を、治療者自身が語ったとしよう。それはそれだけでほとんど、禁煙の必要性を患者に向かって説いていることに等しい。いくら治療者が「これは私自身の体験で、あなたに当てはめようとしているわけではありませんよ。」といってもあまり効果はない。言語外のメッセージというものがある。ただし「先生の体験をぜひ教えてください」と言われて控えめに語る同様の体験は、まったく違う効果を持つことは言うまでもない。

自己開示の効用 その1


 自己開示の効用の一つは、それが説明の手段として適している場合である。人がある点を主張したい場合、自分の体験を例にとり説明することの効果は非常に大きい。それが自分自身の体験を通して語られることで、それは無機質的な「単なる理屈」以上の意味を伴って相手に伝わることがある。

これから一人で登校を始めることになる幼稚園児や小学生に「左右をよく見てから横断歩道を渡りましょう」と話してもあまり響かない可能性がある。その時左右をよく見ずに渡ったために事故に遭ったという例を出すことの効果は少なくないだろう。ところが自分がその事故に遭ったという体験を感情を交えて伝えることで、初めて聞く側は自分に関与していることとして聞く姿勢を持つだろう。目の前に、「左右をよく見て」を怠って事故に遭った人間がいて語り掛けると言う事のimpactはとても大きいし、その一部はそれを実体験をもとに語る側の熱意や真実味を伴っていることの効果である。それに私たちがある事柄について知りたい場合、まず求めるのは実体験を持った人の語りである。